苦しさと喜びのスパイラルもあった初エッセイでは“妻目線で自分にツッコむ”異色作も

――本書では、文芸誌『波』(新潮社)の連載エッセイ「細かいところが気になりすぎて」が、1冊の本となりました。

橋本直(以下、橋本) 過去に夕刊でちょろちょろっとした連載はあったんですけど、文芸誌の連載では文章量もそれなりに必要でしたし、短距離走とマラソンのような違いがありましたね。しゃべり言葉と書き言葉の違いにもとまどいながらも一生懸命に書いて、エッセイとかノンフィクションとか、日頃から読書も好きですし、書店で自分の本が並んでいる光景を見られる日が楽しみです。

――喫茶店で貧乏ゆすりをしていたお客さんが気になったエピソードなど、過去から現在に至る経験を細かく振り返っています。何か、書き溜めていたものがあったんでしょうか?

橋本 喫茶店の話はたしか、スマホのメモに「喫茶店 貧乏ゆすり」ぐらいを書いていた程度です。あとでネタにしようとかではく、その場ではほんまにムカついたんやと思います(笑)。

――(笑)。実際、執筆時の苦労を振り返ってみていかがでしょう?

橋本 笑いの配分の仕方が難しく、苦しさと喜びのスパイラルでした。内容のバランスを考えていたつもりでしたけど、結果、完成してみたらだいぶコッテリでしたね。でも、それが味だと思って、出版元の新潮社さんが寛大で、僕のパッションも汲み取り、自由に書かせていただいたとは思います。

――自身の気になりすぎる性格をもとに、日常の出来事に逐一ツッコむという構成が、ユニークでした。

橋本 やるせなくてモヤモヤしたり、傷ついたり、怒ったりしたときに、ツッコミで浄化している感覚なんです。一番最初に書いたのは「マスクの紐」で、紐が切れてしまったから『鬼滅の刃』の禰󠄀豆子スタイルでマスクの中心を噛み、カモフラージュしたっていうエピソードですけど、悩みながらも書き進めたら、文章に体重が乗ってきて。何が好きかを自分で整理できたし、全編をまとめて読んだら、懐かしくもなりましたね。

――橋本さんの文章に合わせた、相方・鰻和弘さんの本書のみどころとなっています。

橋本 僕の文章を受けて書いてくれたので、原稿が上がってくるのが楽しみでした。鰻さんなりの視点で描いているのが、面白いなと思って。絵でしかできない表現もありますし、内容も「面白い」と言ってくれたのがうれしかったですね。同期の芸人、ジャルジャルの福徳(秀介)も読んでくれて、褒めてくれました。

――掲載された一編「汁」では、ルームシェアしていた芸人仲間と鍋を囲んだ当時のエピソードも明かしていました。

橋本 何人かいて、芸人を辞めて作家になったヤツもいて。ガクテンソクの奥田(修二)くんとか、スーパーマラドーナの田中(一彦)くんとか、6日連続で汁を継ぎ足し続けた鍋を食べたのが、強烈に印象に残っていたんです。

――本書独自の書き下ろし作品「結婚」は、奥様から橋本さんへのツッコミを、橋本さんが想像して描くという、他とは一線を画す一編でした。

橋本 逆の視点で書いてみようと思ったんですけど、玄関周りに私物を置いてしまう僕へ「家の玄関狭いのにめっちゃ物置くやん!」とか、僕が想像して書いたツッコを読んだ奥さんからは「分かってるんだったら、やりなさい」と言われました(笑)。自分に対して奥さん目線でツッコんで、文章ではそれに僕もツッコんでいるから、ツッコミの量が倍になってるんちゃうかなって。でも、結果としていい感じにまとまったからよかったですね。