こんにちは。GANG PARADE/KiSS KiSSのキャ・ノンです。今日は五月を思い出す小説を載せようと思います。今、高校生のことを書けと言われても無理な気がしますが、ギリギリ書けていた頃のものです。よかったら読んでください。

『空腹』

「ダイエットしよっかな」
高校一年生の夏休みを目前に控えた昼休み、彼女は軽やかな口調で言った。それはいつもの日常、いつもの会話の何気ない一瞬だった。しかし、その一言で何もかもが崩れてしまった。

わたしたちはいつだって二人でいた。中学校を卒業して、誰一人知っている人がいない高校に入学してから、初めて話しかけてくれたのが彼女だった。どんなときでも、一緒に過ごす人がいないと生きていけない女子高校生。実際には生きていけるのかもしれないし、当たり前に生きられるのに、女子高校生とはそういう生きものだ。わたしたちはすぐに仲良くなった。好きなものは違ったし、特別話が合うわけでも、音楽の趣味が合うわけでもなかったが、一緒にいて無理をする必要がなくて、居心地がよかった。

高校生活に少しだけ慣れてきた五月の中頃、短いゴールデンウィークは終わり、はじめての席替えがあった。彼女は一番前の席になって離れてしまったが、昼休みは必ず二人でご飯を食べた。授業の合間の休み時間はトイレに行ったり、机に突っ伏して寝ていたり、それぞれで過ごす。それでも昼休みになれば二人で購買に行って、パンや唐揚げを買った。それがわたしたちの当たり前になって、楽しいような退屈のような毎日を過ごしていた。

四時間目が終わる寸前、クラスのみんながスクールバッグから財布を取り出して構える。授業が終わるのを今か今かと待ちわび、ひたすら時計を眺めていた。この時間になると、学級委員の号令も心なしか焦りを感じる。チャイムが鳴ると同時にわたしたちは駆け出した。側から見たら青い映画のワンシーンのようだが、わたしにとっては無味無臭の青春だ。でもこの時間が少しだけ好きだった。この日の昼食は二人ともパンにした。購買で買った紅茶のメロンパンを頬張りながら彼女は幸せそうにこちらを見て微笑む。

「本当に美味しそうに食べるね」
そう言うと彼女は、顔をくしゃくしゃにして笑った。わたしは彼女が羨ましかった。特別美人なわけでもないが、勉強もできて、いつだって明るく、誰にでも分け隔てなく接し、悪い事には一切手を出さない。たくさんの人に愛されて生きてきたのだろう。真っ白、ゼロ、わたしは彼女にそんな印象を持っていた。いつまでも綺麗なままでいる彼女が、どこか羨ましくもあった。なりたいわけではないけど、彼女が仲良くしてくれていることがすごく幸せだった。

「わたし太ったかもしれない!」
ただでさえ八の字の眉を、さらに困らせて彼女は言った。そんなことないよ、全然細いよ。冗談交じりでなだめるが、バレエの先生に言われてしまったと、珍しくかなしそうな顔をしていた。
「でも忘れててメロンパンなんて、食べちゃったよ・・・」
それがなんとも彼女らしくて、わたしたちは二人で笑った。じゃあ明日から頑張ろう! そう言うとちょうどチャイムが鳴った。

「おはよー」
次の日学校に来ると、彼女は朝からお腹を空かせていた。早く昼休みにならないかな、なんて休み時間のたびに他愛のない会話をしていた。しかし、四時間目が終わっても、彼女は購買に行こうとしなかった。
「行かないの?」
「うん、今日はお弁当持ってきたから」
そっか、と言いながらわたしは財布をスクールバックの中にしまう。彼女がお弁当箱を開けると、そこには葉物しかないサラダが入っていた。
「えっ、それだけ?」
思わず聞いてしまった。その日から彼女の笑顔は明らかに減った。次の日も次の日も、彼女はサラダしか食べなかった。わたしも影響を受けて、サラダだったりバナナしか食べない生活をはじめた。まわりのクラスメイトは、わたしたちを少し敬遠していた。影でひそひそと言われることも増えた。しかし、わたしたちはもう戻ることができなかった。

「やっぱりダイエットやめる!」
ある日突然、昼休みに購買で唐揚げとパンを買い込んで彼女は帰ってきた。一緒に食べる? そう聞かれても、もうわたしにとって揚げ物は絶対に食べてはいけない食べ物になっていたし、パンやご飯の炭水化物は恐ろしくて仕方のない存在になってしまっていた。わたしは大丈夫。断ると、彼女は少しだけ悲しそうに、しかしすぐぱっと明るい顔をして、唐揚げのパックを開ける。ひさしぶりに明るい顔の彼女をみた。顔はすっかり痩せて、体は一回りほど細くなっていた。わたしたちは今でも、あの頃のように何も気にせず、笑い合って一緒にご飯を食べることはできない。

過去の連載記事はこちら
https://strmweb.jp/tag/ca_non_regular/

キャ・ノン

「みんなの遊び場」をコンセプトに活動する11人組アイドルグループGANG PARADEのメンバー。また、「KiSSをあなたにお届けchu!♡」をキャッチコピーに活動するWACK初の王道5人組アイドルグループ『KiSS KiSS』のメンバーの一人でもある。ライブ好きで、苦手なことや、できないことは出来るようになればいいというタフでロックな精神の持ち主。2024年5月31日より自分自身のライブレポートなどを綴った『アイドルリアル備忘録』をSTREAMにて連載中。