戦うでもなく、無理やりでもなく、相手に委ねながら、相手を信じることが大切

――遥海の幼馴染みを演じる浅利陽介さんは、「コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」を始め、共演が多いですよね。

比嘉 浅利くんの存在は大きかったですね。二十代から一緒に戦ってきた戦友なので、彼がいてくれるだけで気負わず、自分らしくいられましたし、絶対的な安心感があります。役柄的に幼なじみという関係性ですが、その空気感はお芝居以外の部分からも出ていると思います。彼がそういうのを引き出してくれる方だから、難しい役も乗り越えられて、とても感謝しています。私にとっての浅利くんって、友達というよりも親戚感が強いんですよね(笑)。

――遥海の母親・満代を演じた石野真子さんとも共演経験がありますよね。

比嘉 以前共演させていただいた映画『大綱引の恋』(2021)も親子役だったんです。だから真子さんの顔を見ると必然的に「お母さん!」という思いになります。

――現場の雰囲気はいかがでしたか。

比嘉 今回、初めましての方がほとんどだったんですけど、伊勢志摩というロケーションが素晴らしかったのもあって、すごく良い雰囲気でした。皆さん個性があって、それによって化学反応が起きて、絶妙のバランスで成り立っている現場だなと。三浦翔平さんと遥海の父親を演じた(三浦)友和さんが、撮影中以外あえて私と接しないように距離を置いてくださったのも大きくて。父親に反発していた遥海が、ちゃんと父親と向き合う大事なシーンで、私は撮影中に感情が高ぶってしまって、手が震えていたんです。カットがかかったときに、友和さんが何も言わずに手をギュッと握ってくださって、それでお互いの思いが通じ合ったなと感じました。

――まさに映画のシーンそのままですね。

比嘉 親子でもないのに、一瞬にして満たされたんですよね。友和さんに、「よく頑張ったね」と言ってもらえた気がして、本当に素敵な先輩と共演できたな、幸せだなと思いました。この経験は一生忘れないし、自分がこの先、役者として一歩一歩歩んで経験を積む中で、同じように後輩の役者さんに手を差し伸べられるような人でありたいなと。そういう人との出会いを通して、ご褒美みたいな経験を得られるから、年々この仕事の面白さや尊さを感じます。

――田中監督とは、以前からご一緒したかったそうですが、どんな印象でしたか。

比嘉 田中監督の作品は、静かに進んでいくんですが、そこに深いテーマがあって、“愛”を感じるんです。それは田中監督自身の愛情であって、伊勢志摩の優しい風景にぴったりだったんですよね。田中監督は撮影中ずっと寄り添ってくださって、本番前もギリギリまでお互いにセッションして、「こう演じてください」じゃなくて、「遥海としてどう思う?」って私の気持ちを尊重してくださるんです。そうやって心の準備を待ってくださって、「もういける?じゃあいこうか」という風に送り出してくださるんですよね。そのやり取りが柔らかいので、「やらなきゃ!」というプレッシャーではなくて、自然と遥海になって、そこにいさせていただきました。田中監督が愛の人だから、それが全体に伝わって、演者もスタッフさんも息の合ったチームになってくるんです。主演の一人として、みんなを引っ張る人はそうじゃなきゃいけないなと、田中監督の姿勢で学びました。戦うでもなく、無理やりでもなく、相手に委ねながら、相手を信じることが大切なんですよね。