いろんなジャンルの人と繋がることで、新たな表現が完成した

──この記事を読んでいる人の中には、自分の進路や転職で悩んでいる若者もいるはずです。

加納 学生時代からいろんなものに触れていくと、自分の好きな本や映画や漫画ができるじゃないですか。私の場合、その中でも特に自分の身体を使ったお笑いという表現が好きだったんです。「自分のやりたいことを見つける」って簡単そうに見えて意外に難しいことかもしれないけど、進路を決めるまでに何をどれくらい摂取しているのかというのは重要なポイントになる気がします。たしかにお笑いの世界というのは過当競争なんですけど、そこに対して悩むということは一切なかったです。もう夢中だったので。

──就職や天職先で悩んでいる人は、全身全霊で没頭できるものが見つかっていないという言い方もできるかもしれませんね。

加納 う~ん、客観的に自分を見ている状態なのかな。我を忘れるほど夢中になれることがないからこそ、悩んでいるのかもしれないですけど。そのためにも本をたくさん読んだり、映画を観たりしつつ、自分の世界を広げることが大事になってくるんじゃないかと私は思うんですよ

──加納さんって活字好きなイメージは強いですけど、映画はどんなジャンルを観るんですか?

加納 著作権が切れたような昔の作品が好きですね。オードリー・ヘップバーンとかが出ている白黒映画とか。DVDが安いから難波の日本橋とかで買って、よく家で観ていたんです。

──天職でもない芸人を、これだけ長く続けられている秘訣は?

加納 それは単純な話で、お笑いが好きだから。私、デビューしてからやりたいことが途切れたことがないんですよ。常に「あれもやりたい、これもやりたい」というのが連続して出てくる状態なので。結局、それは人との出会いが大きかった気がしますね。いろんな人と繋がることで、いろんな創造が生まれた部分があるので。

──振り返ると、いい出会いが多かった?

加納 そうですね。たとえば2020年の『(女芸人No.1決定戦)THE W』でやった映像漫才は、映像作家の人と出会ったことでスタートしているんですよ。仲間内で一緒にネタを作ったり、違う分野の才能に触れたりすることで、刺激を受けている面は相当あります。今回の本『行儀は悪いが天気は良い』だって、ある意味では同じですよ。文学の世界にいる編集者の方と知り合ったことで、新しい表現が完成したので。そうやって広がっていく感じの活動が個人的には好きなんです。

──なるほど。ある程度のキャリアができると、どうしてもマンネリに陥るという問題に直面しがちですが、そのあたりは心配なさそうですね。

加納 私たちの場合、テレビに出させていただけるようになったのがこの2~3年ですから。大御所の方みたいに、まだ守る段階に入っていないんです。むしろ今から世の中に知ってもらおうという段階。まだマンネリとか言えるステージではない(笑)。

──本を読んで感じたのは、とにかく描写が細かいし、記憶力が尋常でないということでした。この洞察力や観察力は持ち前のものなんですか?

加納 ホントですか!?私、記憶力は自信ないんですよ。道とかお店の名前は全然覚えられなですし。でも、どういうわけか人との会話はすごく細かく覚えているんですよね。記憶力に関しては、得意・不得意のジャンルがはっきり分かれている(笑)。たぶん自分の興味あることしか覚えられないんですよ。

──卓越した文章力は、どのようにして鍛えたんですか?

加納 いや、自分では文章が上手いなんて思ったことないですけど、もしそう言っていただけるのであれば、趣味が読書だからとしか言いようがないです。歴史小説が好きなんですよ。自分が書くものにその影響は微塵もないですけど。もし私が歴史要素を入れるとしたら、知識をひけらかすような鬱陶しい文章になりそう(笑)。