「若者のお笑い離れ」に対して個人的に思うこと
──現在、加納さんは芸人であると同時に文筆業やドラマ脚本でもマルチに活躍しています。ご自身の立ち位置をどのように捉えているのですか?
加納 もちろんめちゃありがたいです!今後もお笑い以外のことはガンガン何でもやっていきたい!だって、やっていて楽しいんですよ。結局、ネタもエッセイも頭で考えて文章にして書くという作業は同じじゃないですか。これからは書く内容のジャンルを広げていきたいという気持ちがあります。
──つまり小説やエッセイも、ネタを書く延長線上でできるということですか?
加納 厳密に言うと、小説とエッセイは使う筋肉がまた違うんです。エッセイは思い出しながら文章にまとめる作業だけど、小説はそれこそネタ作りに近いかな。だけど同じ人がやっているわけだから、互いに作用する部分も出てくるんですよ。
──そういう点で言うと、Aマッソのコントや漫才と加納さんの書く文章では方向性がだいぶ違う気もするんですよね。文章のほうが、より細かいところを追求する印象もありますし。
加納 たしかにお笑いの舞台は自分の肉体を使っての表現になるから、できることが限定される部分はあるんですよ。私にとっては、文章のほうが自由にどこでも行ける感覚があって。やっぱり芸人としては、多少なりとも自分の芸風とかキャラクターがありますからね。「これは自分らしくないな」とか無意識のうちに取捨選択している面もあるでしょうし。原稿はそのあたりを度外視して、素を出す作業なんです。エッセイや小説は、芸人としての加納を知らない人にも届けたいと考えていますし。
──実際、活字仕事はお笑いファン以外からの反響もあったりするんですか?
加納 そうですね。たまにエッセイから入って、ライブに来てくれたという人もいます。なんて言えばいいのかな……。たとえば濃度の高いお笑いオタクみたいな人が、その分野の中で突き詰めて専門的になっていくことが果たしていいことなのか?そのへんは個人的に少し疑問に思っているんですよ。音楽や映画とかを含めて、お笑いはもっと他のジャンルと交流したほうがいいんじゃないかなという考え方なので。
──お笑いの世界に軸足を置きながら、そういった広い角度で分析できるのは珍しいかもしれません。
加納 私も決してお笑いを軽んじているわけじゃないですよ。現場の芸人たちはみんな必死で頑張っているし、ネタのレベルだってみんな高いと思いますし。だけど、たとえば10代の若い子たちがお笑い番組をあまり観なくなっているような現実もあるわけですよ。
──えっ、そうなんですか!
加納 いや、だって単純にテレビを観なくなっているじゃないですか。YouTubeやTikTokを観る機会は多いんでしょうけど。だから私たちが子どものときみたいに、学校で「昨日、あの番組観た?」とか共通の話題で盛り上がること自体が減っているんですよね。自分がやっているラジオのお便りでも「クラスでM-1を観ている人なんて誰もいません」とかいう意見があるわけです。私なんて関西の人間だから、少なからずショックを受けますよ。
──そういった「若者のお笑い離れ」に対する危機感から、他ジャンルへのアプローチも必要だという考えに至ったということですか?
加納 「危機感」というほど大袈裟なものではないですけどね。別に私はお笑いというジャンルを背負うほどの器ではないので。ただ私個人としては、活動の場を広げることによって少しでも自分たちの笑いに触れてくれたらいいなと考えているんです。
──最後に今回の『行儀は悪いが天気は良い』をどんな人に、どんなふうに読んでもらいたいですか?
加納 普段から本を読む習慣のない人が、「ちょっとSNSを離れて、本でも読んでみようかな」と手に取ってくれたらうれしいですね。そしてこの本を読むことで、「人と関わることって悪くないな」と感じてくれたら幸いです。一人、部屋の中で自分の思想や理想を煮詰めるという表現もあるのかもしれないけど、この本は人と関わる中で考えたことがベースになっていますから。要するに「友達っていいよな」「人と関わることって面白いな」という感覚ですよね。他人への興味が、ひいては自分の人生を豊かにしてくれると私は考えていますので。
PHOTOGRAPHER:YUTA KONO,INTERVIEWER:MAMORU ONODA