ミネオショウさんの持つ存在感、普通の中にある狂気みたいな部分が素敵だなと思った

――『ホゾを咬む』の企画はどのように立ち上がったのでしょうか。

小沢まゆ(以下、小沢) 私が初めてプロデュースした映画『夜のスカート』(2022)が37分の中編だったので、次は長いものをじっくりと作りたいなという思いがあって。以前、髙橋栄一監督と別の作品でご一緒したときに、面白い感覚を持っていて、一度やると決めたらやり遂げる信念の強い方だなという印象があったんです。髙橋監督とだったら他にはないような面白い映画が作れるんじゃないかなと思って声をかけたところから始まりました。

――『夜のスカート』もそうですけど、『ホゾを咬む』は言葉だけに頼らない映画ですよね。

小沢 確かにそうかもしれないです。私自身、言葉で多くを説明せずに、いろんな要素から様々なものを受け取って、おのおのに感じるものが生まれる映画を観るのが好きなんです。

――脚本も髙橋監督が手がけていますが、どうやってテーマや内容を決めたのでしょうか。

小沢 どういう作品をやりたいか聞いたときに、髙橋監督から出していただいた企画が幾つかあって、その中に夫が妻を監視する『ホゾを咬む』の原型となるお話があったんです。これは面白そうだと思って、さらに練って、脚本を書いていただきました。

――脚本の初稿を読んだときは、どう感じましたか。

小沢 隣に妻がいるのに、監視カメラというフィルターを通して妻を見続けている。これに近いことって、自分の実生活にもあるなと思いました。目の前にいる人をちゃんと見ればいいのに、他の人からの話なんかに惑わされて、大切なものが見えなくなっている。そういうところが面白いなと思いました。

――ミネオさんは初めて脚本を読んだときに、どんな印象を受けましたか。

ミネオショウ(以下、ミネオ) ストーカーのように妻を付け回すのではなくて、監視カメラを設置するという発想が面白いなと思いました。ストーリーも共感するものがあって。興味がある人のインスタのストーリーなんかを見ていると、面識がなくても近くにいるような感覚になるじゃないですか。それに近いなって思ったんですよね。『ホゾを咬む』の場合は他人ではなく夫婦ですが、カメラを通して妻を監視していたら、より好きになっていくんじゃないかなと。

――主演のミネオさんはどのように決まったのでしょうか。

小沢 私のほうで、茂木ハジメという役を演じてくれる俳優さんは、どういう方がいいだろうかと考えて。年齢や雰囲気で何名かリストアップしたんです。その中から「ミネオショウさんに当たっていただきたいです」と髙橋監督に言われて、ミネオさんの事務所にオファーして、出演していただくことになりました。

――小沢さんは、ミネオさんのどういう部分がハジメに合っていると思ったんですか。

小沢 ミネオさんの持つ何とも言えない存在感、普通の中にある狂気みたいな部分が素敵だなと思いました。

――ハジメを演じる上で、どんなことを意識しましたか。

ミネオ 今回は最初にゴールを決めてから肉付けをしていきました。個人的にハジメは監視カメラを仕掛けてから、より人間らしくなっていくなと感じたので、そこの違いを出したいなと。なので前半は、普通の人ではない“間”や、表情で他人に心境がバレてしまうようなエキセントリックな面を意識しました。

――“間”というお話がありましたが、過剰なまでの間をキープするのは、演じる側にとって勇気のいることですよね。

ミネオ 怖いですよね。「これ本当に撮ってる?」ってときもありました。

小沢 ずっとカメラを回しているから、「カットってかかりました?」みたいなこともありましたよね。

――監督は具体的に間の時間は指示されるんですか。

ミネオ どのぐらいの間とは言われないんですけど、カメラにフレームインするタイミングは何度も言われました。たとえば2階から下りてくるときに、普通は「よーいスタート」から大体3秒ぐらい待って入るんです。その要領で入ったら、髙橋監督から「早いです。10秒待って入ってください」と言われて。次に10秒待って入ったら、今度は「15秒待って入ってください」と。だったらと20秒数えて入ったらOKが出ました(笑)。僕の中の20秒がちょうど良かったみたいです。

小沢 20秒は長い(笑)。

――間もそうですが、人物配置も緻密だなと感じました。

ミネオ そうですね。たとえばハジメとミツが座っている場所の距離感が緻密でした。

小沢 後半にミツが朝ご飯の支度をしているときに、ハジメが2階から下りてきて、奥の洗面所に入ってミツを見るというシーンがあります。あそこも緻密に計算された位置に行かないとああはならないので、髙橋監督と撮影監督の西村博光さんが綿密にやってくださっています。