失敗したほうが、伸びしろしかないから面白い

――映像方面ではなく、デザインを仕事に選んだのはなぜですか。

山崎 今でも映画を撮りたい気持ちはあるんですが、大学時代はクラブカルチャーの中にいて、フライヤーを作ったり、VJをやったり、ダンスをやったり。いろいろやっていく中で、社会に出るときは何をやるか考えて。どの道に行っても、結局は自分でやりたいことをやるだろうから、その中で一番おしゃれな世界にいこうと。まあ見た目がこんな感じなので、金髪でも働ける職場がいいなという単純な動機もありましたが(笑)。自由が一番の美徳だと思っていましたし、今でもそう思っています。それは、見た目も生き方も。

――デザインも大学時代に学んでいたんですか?

山崎 デザインに関しては完全に実践です。当時はクリエイティブチームみたいなものが流行っていたので、僕も友人とデザインチームを作って、独学で勉強しながら、フライヤーやウェブサイト、アーティストのPVなどを手掛けていました。その当時、リアルタイムで出ていたデザインの本は、ほぼ目を通していたと思います。

――どうして、そこまでデザインに打ち込むことができたのでしょうか。

山崎 楽しかった、という一言に尽きますね。友達と飲みに行った帰りも、大学が池袋だったのでビックカメラの専門書のコーナーに行って、新しいデザイン関連の本が出ていたら買って、電車に乗って夜の12時半ぐらいに横浜の家に帰って。そこから本を読んで、作品を作って、朝の7時ぐらいに寝て、昼から大学に行くみたいな、そういうリズムでした。やっぱ好きだとやっちゃうっていうことだと思うんですよね。逆に言えば好きじゃないものはやるべきじゃない。うちの子どもたちにも「好きこそものの上手なれ」ってよく言うんですが、好きなことだと身に付くけど、嫌々やらされたら身につかない。だから、無理やりやらせるのではなく、好きになるのを待つことも大切だと思っています。

――好きなことでも社会に出ると難しい局面もあると思うんです。それを乗り越えるコツってありますか。

山崎 何があっても強引に楽しいと思いこむっていうことと、失敗を怖がらないことですね。誰だって失敗したりするのは嫌じゃないですか。でも失敗したほうが、伸びしろしかないから面白いんですよね。僕は毎年、雪山に行って、スノーボードをやるんですけど、ほとんど伸びしろはなくなっているんです。でも、新しいことのやり始めって一気に上手くなっていくから超面白いんですよね。好きな仕事って、それと同じ感覚なんです。僕は何事も飽きっぽい性格なので、新しい好きなことを始めて失敗だらけから始まって。その後、70点くらいまでいくのが面白いんですけど、その先も続けているのはごく一部です。

――社会に出たばかりの頃、コミュニケーション面で悩むことはなかったんですか。

山崎 あまりなかったですね。それこそ親に心配されるくらい、幼少期から、人は人、自分は自分みたいなところがあったので、人に依存しないんだと思います。自然と余白を作っていたというか。人と人の関りである以上、合わない人がいるのはしょうがないことなので、距離感や心の持ちようで、どうにでもなるんじゃないかな。

――今回の本を読んで、山崎さんは周りに流されないし、仕事のスタンスもブレないなと感じました。

山崎 ブレないというか、好きなことをやり続けたら、相対的にブレてないように見えるだけだと思います。

――山崎さんが独立した2008年当時は、あるゆるデザインが分断されていたと本に書かれています。もともと山崎さんがいた広告業界では、キャリアのあるグラフィックデザイナーが幅を利かせていたそうですが、そういう存在はどう映っていましたか。

山崎 あまり気にしないようにしていました。「JAGDA」(日本グラフィックデザイン協会)という組織に24歳くらいで所属したんですが、そこが主催するアワードにも入会した年しか出したことがないです。その時は、デザイン賞に出すことより、自分のやりたいことのほうが優先順位は高かったんです。自分ができること、やりたいことは、人が決めることじゃない。自分のためにやって、その領域がどんどん広がっていって、どうせこれをやるんだったら社会のためになったらいいなと。そういう流れで、デザインの力で社会が変わるといいなと思うようになったんです。

――2年前からテレビ番組のコメンテーターも務めていますが、デザイン以外の仕事だからこその刺激ってありますか?

山崎 ありますね。特にテレビや一般の雑誌は刺激が大きいです。僕らが公の場に出る機会って同じ業界のカンファレンスとかなので、より広い、世代を超えた一般の方に考えを伝えるという面においても、たくさんの学びがあります。今回の本もそうですけど、僕の中にある曖昧でドロドロしたものをそのまま出すと、こうはなりません。咀嚼して、平易な言葉で、シンプルに分かりやすくすることで世の中には伝わるんですよね。

Information

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著者:山崎 晴太郎
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山崎晴太郎

1982年8月14日生まれ。代表取締役、アートディレクター 、デザイナー。立教大学卒。京都芸術大学大学院芸術修士。2008年、株式会社セイタロウデザイン設立。企業経営に併走するデザイン戦略設計やブランディングを中心に、グラフィック、WEB・空間・プロダクトなどのクリエイティブディレクションを手がける。「社会はデザインで変えることができる」という信念のもと、各省庁や企業と連携し、様々な社会問題をデザインの力で解決している。国内外の受賞歴多数。各デザインコンペ審査委員や省庁有識者委員を歴任。2018年より国外を中心に現代アーティストとしての活動を開始。主なプロジェクトに、東京2020オリンピック・パラリンピック表彰式、旧奈良監獄利活用基本構想、JR西日本、Starbucks Coffee、広瀬香美、代官山ASOなど。株式会社JMC取締役兼CDO。株式会社プラゴCDO。TBS「情報7daysニュースキャスター」、NTV「真相報道 バンキシャ!」にコメンテーターとして出演中。

PHOTOGRAPHER:TOSHIMASA TAKEDA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI