専門家ではない立場で演者の相談に応じる難しさ

――2023年4月15日に「歌って、踊って、演じて、表現するアイドルのための健康とジェンダー」と題したトークイベントを開催。「アイドルを含めたいろいろな人たちが、心身ともに健やかでいられるには」という問題へ切り込んだ雑誌『エトセトラ VOL.8』で共同編集を務めた作家・鈴木さんと、アイドルの和田彩花さん。そして、振付師としてアイドルに寄り添う竹中夏海さんの座組となった経緯は?

鈴木みのり(以下、鈴木) 雑誌でのインタビュー仕事や、芸能界の方々との話す中で、労働問題やジェンダー規範の話がしにくいと思っていたんです。K-POP界では、特にファン側からの声で、議論が増えている印象もありますが、日本ではフェミニズムに関心のない人も多いですよね。そこで「一般の方も含めてどうすれば広く話題を共有していけるか」と考えた時、竹中さんが雑誌で「アイドルの未来のためのアンケート」のスタッフ側の設問に回答してくださって、アイドルの健康課題を扱った著書『アイドル保健体育』も出版されていたので、お話しできればと思いました。

――竹中さんは『エトセトラ VOL.8』に、どんな感想を抱きましたか?

竹中夏海(以下、竹中) いろいろな方からの寄稿やインタビューがあるので、アイドルの外側と内側の視点からの問題を感じつつ、私も共感できる部分が多々ありました。一方で、問題があっても見過ごしていて「自分がごう慢なのでは?」と感じ、勉強不足に思う部分もありましたし、関わる人それぞれの視点が異なると分かりました。

――鈴木さんは、竹中さんの『アイドル保健体育』に何を思いましたか?

鈴木 特集内の「アイドルの未来のためのアンケート」は、和田さんと版元編集者と質問項目を考えたんですけど、特に聞きたかったことのひとつがアイドルという労働への意識でした。「アイドルは仕事だと思いますか?」と直球の質問だけでなく、派生して「相談する相手はいますか?」「健康診断はありますか?」といった、労働に関する健康や生活に関する質問も設けたんですね。竹中さんの著書はまさに、アイドルという労働を続けるための健康についての名著だと思います。わたしは数年間、日本の演劇界の人たちとハラスメントに関する勉強会をやっていたんですね。ハリウッドの映画などメディア産業での性暴力被害を告発する「#Me Too」運動から、不当な労働状況に声を上げやすくなる社会の実現のための啓発や、苦しんでいるサバイバーへの支援への意識の高まりからの影響でした。ただ、当時は「相談窓口を作れない」という結論に至ったんです。

――「作れない」となった理由は?

鈴木 専門家ではない人が下手に手を出すと、相談に来てくれた方を傷つけてしまう可能性があるからです。そこで、既存の相談窓口のリスト化が当時のベターじゃないかという話になりました。「まず話を聞いてもらいたい場合はここへ」「法的な相談ならばここへ」「労働問題であればここへ」「性暴力被害の相談はここへ」と、フリーランスでも受け入れてもらえる専門窓口を整理して公開したんですね。アイドルの皆さんにもフリーランスは多く、さらに、体調不良であっても「スタッフが揃っているし、スケジュールを変えられないから」と言われ、休めないことも多いと聞きます。なので、竹中さんの著書の「自分を大事にしていいんだよ」というメッセージや、ケアの取り組みはとても大事だと思います。