アイドルの労働環境には「夢が人質になる構造」がある

――竹中さんは振付師であり、アイドルの皆さんのメンターでもあると思います。心身の問題でいずれかにも関わらず、相談される機会は多いのでしょうか?

竹中 多いです。でも、専門家ではないため下手な回答ができないという思いから、専門家に聞こうと考えて作ったのが著書『アイドル保健体育』でした。自分の生理の問題であれば「自分で解決すればいい」と思っていたし、生理痛の重さからピルを服用していた経験もあるので知識はあったんですけど、いざ「先生どうですか。使いたいけど、お母さんに反対されていて」と相談された時、医学的には素人の私が答えるのはまずいと思ったんです。婦人科系の問題だけではなく、ダイエットなど問題は山積みですし、根拠のある情報を届けたいと思って取材していました。

――実際、どのような場面で相談を受けるのでしょうか?

竹中 絶えず受けているのではなく、グループによって距離感も違うし、基本はマネージャーさんを通して話しています。ただ、初期に教えていたグループは所属事務所も一緒だったので、じかにやり取りするのが多かったです。中には「他の子に連絡先を聞いたんですけど」とメッセージがもらう時もあり、私に聞かなければいけないほど相談できないのかと思いました。機会としてはレッスン前後も多く、「生理でしんどいからあんまり動けないかも」と私から言えばアイドルの子も「私もなんです」という空気になりやすいだろうから、なるべく表明して、相談しやすい雰囲気作りをしています。

――『エトセトラ VOL.8』の「アイドルの未来のためのアンケート」を読み、アイドル界の多岐にわたる問題は一括りにできないと思いました。絞るのは難しいかもしれませんが、中でもお二人が急務だと思う問題は?

鈴木 労働問題です。女性をはじめ、マイノリティの人々の働きづらさが取り沙汰される一般的な労働問題とも共通するテーマで、家族をはじめ周囲のサポートがあって乗り越えられる人の声が目立ったり、「自分でどうにかするべき」という根性論のような話になったりする傾向があると思います。わたしは、K-POPアイドルの仕事におけるメンタルヘルスの危機にふれてから、より問題意識を強めましたが、日本でもそういった相談の出来る相手があまりいないのではと感じます。一般社会でも「元気になれば何とかなる」といった話になりがちですし、「明るい表情を見せるのが仕事」と思われているアイドルの仕事だと、苦しさを吐露できず、より問題が表面化しづらい社会構造なのかなと思っています。

竹中 夢が人質になる構造ですし、分かります。私も労働環境を問題視していて、著書の『アイドル保健体育』はそれを訴えるための第一歩なんです。本当は労働環境について書きたかったけど、振付師として説得力ある発信をすると考えた時、まず「心身の健康」を伝えようと思ったんです。体に限らず「心身」をテーマにしたのは、私なりの抵抗というか、健康には「心の話もあるよね」と結びつけて、そもそも健全に働くためには「環境を変えていかなければいけない」と訴える流れに持っていくための足がかりでした。アイドルの子たちが健やかに働いていける環境作りは、常に考えています。