見て見ぬふりはどうしてもできなかった

──雑誌『エトセトラVol.8』やイベントに関する話題の前に、先日、和田さんが発表したInstagramのメッセージについてお聞かせください。「アイドルの世界のあらゆる暴力に反対します」として長文が投稿されました。これは最近、大きく取り上げられている男性アイドルの性加害問題を指していると思われますが、どういった意図があったのか、改めて説明をお願いできますか。

和田彩花(以下、和田) この問題は『エトセトラ』の内容とも密接に繋がっていると思うんですよ。今、私は日本にいないんですけど(※フランスに留学中)、大変なことが起きているなというのが最初の率直な感想でした。そして同時に考えたのは「これが女性アイドルだったら、どうなっていたんだろう?」ということ。おそらくですが、もっと大きな問題になっていた可能性も高い気がするんです。被害者が男性だからといって、問題が矮小化されていい理由にはなりませんよね。これまで私は女性アイドルの抱えている問題について発信してきましたけど、男性側にも世の中に口にできないような苦しみがあるということを思い知りました。

──対岸の火事ではない、と。

和田 その通りですね。普段はアイドルにまつわる問題についていろいろ発信している立場なのに、それが男性になった途端に黙り込んじゃうのはおかしいじゃないですか。それと、もうひとつ。『エトセトラ』は半年くらいかけてじっくり作り、その中で実際にほかのアイドルさんに話を伺ったり、いろんな方の原稿やアンケートを読ませていただいたんです。そこで痛感したのは、行動を起こすことの大切さ。これまで私はアイドルに関する問題提起をしてきたけど、解決する方向に実際に動いていかないとダメだと思ったんですよ。特にこういった暴力やハラスメントの問題に対しては。

──今回の騒動の場合、セクハラとパワハラの合わせ技ですからね。

和田 一連の報道を目にして、自分がされたことを思い出してつらくなる方もいるかもしれない。あるいは女性アイドルでも、似たような経験をした人は胸が苦しくなるでしょう。そういった方たちが今どんな気持ちでいるのか、それを想像するとすごく悲しくなるんですよ。微力かもしれないけど、私も「それは間違えているんだよ」「悪いことなんだよ」「直していかなくちゃいけないんだよ」と言い続けなくちゃいけないなって。

──メディアのあり方も問われています。臭いものに蓋をするのは論外だとしても、大きく報じられることでセカンドレイプ的に傷つく人も出てくるかもしれない。

和田 う~ん、たしかに難しいところではありますね。とはいえ、今までは極端に情報が出ていなかったのも事実ですから。みんな噂話としては知っていたかもしれないし、裁判所で判決も出ているんだけど、ろくに報道されなかったことで、「なんだかよくわからないよね」とうやむやになっていた部分はあるんじゃないかな。デリケートな問題だから慎重に扱うのは当然ですが、やっぱりきちんと報じられたほうがいいと個人的には思います。情報が出たほうが物事は一歩前に進むはずなので。

──まずは現実に起きている問題を直視するところから始める必要があるということですか。

和田 昨年、日本の映画界でもセクハラの問題が大きく報じられたじゃないですか。もちろん絶対あってはいけないことなんですけど、あのときは被害を受けた役者さんだけでなく、原作者の方や映画監督まで立ち上がった。すぐに関係者が行動を起こしたことで、映画界全体の問題として取り上げられるようになったという面があると思うんです。アイドルに関しては、現役で活躍しているメンバー張本人が声を上げることは現実的に難しいと思いますよ。でも、スタッフやプロデューサーといった周囲の方が立ち上がってほしいという気持ちはありました。そういった動きが一切見えなかったのも結構つらかったですね。自浄作用がほとんど効いていないというか。