次世代のアイドルたちが苦しい思いをしないように

──『エトセトラVol.8』の反響を受け、4月15日には「歌って、踊って、演じて、表現するアイドルのための健康とジェンダー」と題したトークイベントが開催されました。和田さんもリモート参加しましたが、当日は「ファンが応援するアイドルのためにできることは何か?」という議論が白熱したことが印象的です。

和田 私自身、ファンの方からの言葉でハッと気づかされることが結構あるんです。最近だとインスタのコメント欄に「あやちょにはぜひNGT48にいた山口真帆ちゃんと対談してほしい」というコメントがあったんですね。私、あの一件が起きたときも何かしなきゃとは思っていたけど、結局は何もできずに悔しい思いをして……。コメントをもらったことで思い出したけど、たしかに今だったら何かできることもあるのかなと。

──ファンの声によって動くこともあるということですね。

和田 あとは応援しているアイドルが何かを発信したときに、「私もそう思っているんだよ」とか一緒に声を上げるだけでも、ものすご~く励みになります。今回の私のInstagramにしたって、熱量のあるコメントがたくさん来ているのを読むと「ちゃんと届いているんだな」と安心するし、心強くなりますから。#MeTooとかもそうだけど、今はネットでも反対運動や署名運動ができる時代ですしね。

──和田さん自身、ハロプロ時代もファンに励まされた部分はありましたか?

和田 超ありました! というかファンの方の後押しがなかったら、今こういった活動はしていないと思います。私の場合、特に大きかったのがラジオだったんですよ。ラジオは本当に自分の好きなことばかりずっとしゃべれる場だったんですけど、放送内容に対して結構いろんな反応が来たんですね。私、そういった意見をTwitterとかで見るのが好きで。自分が興味あることに対して、みんなも関心を持ってくれたりすると、やっぱり単純にうれしくなるじゃないですか。

──ファンとの絆を感じた?

和田 放送の中で「アートが好き」「仏像にも興味ある」「芸術が好きになったら、社会問題にも目が向くようになった」といったことを話していると、それに対して「いいね。あやちょらしくて」とか面白がってくれるんです。それが、どれだけ励みになったか……。「こんな私でいいんだな」「こういうことも口にしていいんだな」って自分に自信が持てるようになったんですよね。ただ一方で私も人間だから間違えることはありますので。そういうときにファンのみなさんが「それはどうなの?」と言ってくれたら、「あれ? 間違えたかもしれない」と考え直すこともできますしね。

──ピント外れなダメ出しも多く届きそうですが……。

和田 たしかに自分がプロデューサーになったかのような意見もあるんですけど、私の場合はそういう声に左右されなかったので(笑)。あとはアイドルだと、ほとんどの場合は握手会がありますよね。あれもすごく大事! というのも対面した状態での生の言葉なので、ネットの文字とは違ってダイレクトな印象が残るんですよ。やっぱり人と人ですから。いずれにせよ、ファンの人の一言がアイドルにとって最大のモチベーションになるのは間違いないです。声をかけることが大事だと思います。

──現在の和田さんは、アイドル活動を続けながらアイドルの地位向上を目指して奮闘しています。なぜそういう方向に進んだと自分では思いますか?

和田 アンジュルムでは、後輩メンバーに囲まれていたんですよね。私以外の子たちは年齢も経験も下だから、やっぱり発想が違うんです。私はハロプロエッグ(※現・ハロプロ研修生)で10歳からやってきて、スタッフさんには「人に感染するインフルエンザ以外は絶対に休むな」って教育されていたんです。一種の根性論ですよね。会場で楽しみに待ってくれている方がいるから、当然ではあるんですけど。だけど後輩の中には、つらいときに自主的に休むと言えるメンバーもいました。

──どちらも一理ありますね。

和田 そう。だから、そこは私も後輩に教えられた部分なんです。根性論がバリバリ染みついちゃっているから疑問にも思わなかったけど、つらいときに休めないのはおかしいという意見に触れることになったんですね。それで結果的には私が各世代の価値観の板挟みみたいになり、心が壊れかけました。本当に何が正しいのか、価値観がわからなくなっちゃって……。

──昔から一緒に仕事しているスタッフからすると、「和田、お前はわかるよな」という感じになるでしょうね。

和田 ところが今まで散々根性論を叩き込んできた大人が、なぜか私を責めるようなこともあったりして……。それまで自分が正しいと信じていた価値観が急に崩れるのって、ものすごくショックですよ。本当に精神状態がガタガタになったし、休みが必要だと思った。それでハッとしたんです。「そうか。休みが必要ってこういうことなのか」って……。後輩たちの気持ちがすごくよくわかりました。私も後輩たちみたいに変わらなくちゃいけないんだなって思いましたし。その頃の私は美術を通じて社会問題にも関心を持ち始めていたから、アイドルの職場環境も時代に合わせてアップデートしていくべきだと気づいたんです。

──つまりアイドルの労働環境改善を考えたきっかけは、後輩たちの未来のため?

和田 それは大きいです。あるいは「次世代のアイドルたちのため」と言ってもいいかもしれません。アイドルとして働きながら傷つく姿は見ていられないですから。私はアイドルが素晴らしいものだと知っているからこそ、今よりもっとよくなってほしいんですよ。アイドルって何だってできるじゃないですか。特に日本のアイドルは音楽のジャンル的にも多様だし、その振り幅が素敵なと感じるんですよね。アイドルやりながらモデルもできるし、アイドルやりながら俳優だってできる。私の場合は美術が好きだったから、アイドルとしてそれを活かすお仕事もできましたし。もっともっとアイドルが輝けるようになるよう、これからも私なりのやり方を模索していきたいです。

Information

雑誌『エトセトラ Vol.8』(エトセトラブックス)
発売中

特集は、鈴木みのりさんと和田彩花さんの特集編集による「アイドル、労働、リップ」。「アイドル」を含めたいろいろな人たちが、心身ともに健やかでいられるには――。「アイドル」の表象、労働、消費について考える、これまでなかったことにされてきた必要で切実で多様な声を集めた特集号。

和田彩花

1994年8月1日、群馬県出身。2009年、アイドルグループ「スマイレージ」(後に「アンジュルム」に改名)の初期メンバーに選出。リーダーに就任。2010年、「夢見る15歳」でメジャーデビューを果たし、同年「第52回日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞。19年をもって、アンジュルム、およびHello! Projectを卒業。アイドル活動を続ける傍ら、大学院でも学んだ美術にも強い関心を寄せる。特技は美術について話すこと。特に好きな画家は、エドゥアール・マネ。好きな作品は《菫の花束をつけたベルト・モリゾ》。特に好きな(得意な)美術の分野は、西洋近代絵画、現代美術、仏像。趣味は美術に触れること。

PHOTOGRAPHER:KYOHEI HATTORI,INTERVIEWER:MAMORU ONODA