自然にできることが自然にできないからこそ、いろいろ考えることができた | 大河元気 「今まで経験したことは何一つ無駄になっていない」 INTERVIEW

自然にできることが自然にできないからこそ、いろいろ考えることができた

――自分にお芝居は向いているなという感覚は早くからあったんですか。

大河　正直、向いているかどうかは今でも分からないです。向いていなかったとしても、好きだから仕方ないというか。ずっとお仕事が楽しいです。

――声優活動がメインになったきっかけはあったんですか。

大河　長く舞台に出させていただいて、主演もやらせていただくようになると、お芝居に関しての意見やアドバイスを言っていただく機会が減っていくんです。どんどん新人も入ってくるから、どうしても演出家の方も、そちらの指導に時間を要するから、「大河くんはそれでいいよ」になるんです。そうすると稽古場に長くいても、僕が芝居している時間は1時間ぐらいしかなかったりする。それを考えたときに、このままじゃ伸び悩んで、役者としての僕は終わってしまうなと。今と同じ状況が続くなら、あと数年しか生きられないだろうなと思ったんです。そんなときに声のお仕事をいただいたんですが、その現場で、これでもかっていうぐらい叩きのめされたんです。今までやってきたこと全てを否定されるかぐらいのことを言われたときに、「なんて素敵な場所なんだろう」と思ったんです。

――否定されたことが逆に新鮮だったんですね。

大河　正直、天狗になっていた部分もあっただろうし、それまで目を向けてこなかった、自分にできない部分を、見せていただける場所でした。アニメデビュー作なんて、一言喋ったら、止められる、というのを何十回と繰り返しましたから。収録が終わって、他のキャストの方は帰られたけど、終電間際までスタッフの方は残ってくださって、僕に付き合ってくださったんです。

――すごく恵まれた環境ですね。

大河　申し訳ないという気持ちもあるし、なんてことをしているんだという気持ちもあるんですけど、それ以上にうれしくて仕方がなかったんです。こんなに素敵な場所があるんだと知って、これからは声のお仕事をしたいと強く思いました。今もその楽しさが変わらないから困りますね（笑）。

――舞台をメインに活動していたときのような壁みたいなものは、声のお仕事ではなかったんですか。

大河　ないですね。振り返ってみると、舞台をメインに活動していたときの自分は何をやっていたんだろうという後悔もあります。あのときできる精一杯を100%やっていたのは間違いないんですが、今の自分ならもっとやれたことがあるなって思います。ただ、過ぎてしまったことに対して、もっとこうできたというのは、人間誰しも思うことじゃないですか。それに今まで経験したことって何一つ無駄になっていることはないと思っていますし、全ての時間に感謝をしています。

――発声法も舞台と声のお仕事では大きく違いますよね。

大河　枷になった部分はどうしたってありますね。舞台は小声で喋ることができないので、声のお仕事でマイク前に立ったとき、小声の意味が本当に分からなかったんです。それも全部楽しいというか、他の声優さんなら自然にできることが自然にできないからこそ、いろいろ考えることができたんです。

――声優さんは短期間で、たくさんの作品に出演することが多いですが、頭の切り替えは早い段階からできましたか。

大河　そこに関しては、それほど自分の中で困ったぞということはなかったです。もちろん現場によっては、「ちょっと声が違って聞こえるね」と言われることもありますし、いまだに勉強中です。そんな試行錯誤が一生続いてくれたら、こんなに幸せなことはないです。

PHOTOGRAPHER：HIROKAZU NISHIMURA,INTERVIEWER：TAKAHIRO IGUCHI