デビュー作『蟬しぐれ』の現場で映画の素晴らしさを知った

――キャリアについてお伺いします。この世界に入ったきっかけは何だったのでしょうか。

佐津川 14歳のときにスカウトしていただきました。

――お芝居に興味はあったんですか?

佐津川 3歳から創作ダンスをやっていて、小学2年生からは新体操をやっていたんです。新体操はクラブチームに所属していて、大会に焦点を合わせて練習していたんですが、私は大会よりも発表会のほうが好きで。今思えば表現するのが楽しかったんだと思います。女優さんになるとは考えたこともなかったんですが、スカウトをしていただいたときに興味を持って。せっかくのチャンスだからやってみようと。あと新体操に打ち込んでいたので、外の世界を見てみたい気持ちもありました。

――初めての現場はどういう作品だったんですか?

佐津川 『蟬しぐれ』(05)という映画の現場で、四季を通した物語だったので、一年間かけて撮影する大作でした。

――デビュー作で、そんな大規模な現場だとプレッシャーも大きいですよね。

佐津川 今思えば贅沢な現場だったなと思うんですが、何もかも初めてのことなので、その作品が大規模だってことすら分からなかったんです。

――その前に演技レッスンの経験はあったんですか?

佐津川 事務所の演技レッスンに何度か行きました。当時のマネージャーさんも何も知らないで現場に入るよりは、場数の一つとして演技レッスンも経験したほうがいいけど、癖がつかないようそこでお芝居は学ばなくてもいいというスタンスでした。私自身、演技レッスンが苦手で……。同世代がいなくて、年上の方ばかりだったので緊張もしました。地方から出てきたばかりの14歳の私には、皆さん堂々としているように見えて、しょぼんとしていました。

――『蟬しぐれ』の現場はどうでしたか?

佐津川 現場はすごく楽しかったです。時代劇というのもあって、スタッフさんはベテランの方が多くて。自分の祖父ぐらいの年齢の方にカツラつけていただいたり、着物を着せていただいたりして。父親よりも年上の方と接する機会ってほぼなかったので最初は緊張したんですが、大人たちが一つの画(え)のために一生懸命作っている光景に感動して。本当に特殊なデビューだったと思うんですが、最初から貴重な経験をさせていただけたおかげで映画が好きになって、これからも映画に携わっていきたいと思いました。

――黒土三男監督に言われたことで印象に残っていることはありますか?

佐津川 年賀状のやり取りをさせていただいたんですが、一言目に「週刊誌やテレビなどは見ないこと」と書いてあって。それは時代劇なので、現代に染まるなというメッセージだったと思うんです。私は言われなかったんですが、一緒に子役をやった石田卓也くんは、「ベッドに寝るな」と言われて、床に寝ていたと言ってました。あと黒土監督から、「小手先ではなく、気持ちでやれ」と仰っていただいて。分からないながらも一生懸命、私が演じたふくちゃんの気持ちになりきって、こういうときはどう思うかを想像して演じました。私が去っていくシーンを撮ったときに、黒土監督から「OK!今、佐津川くんは背中で芝居をしていた。ちゃんと気持ちで演じているから、背中から伝わった」と言ってもらえて、すごくうれしかったのを覚えています。たくさん貴重な経験をさせてもらったのでラッキーだったと思いますし、今でも映画は自分の中で優先順位が高いです。