義足の方とお会いして、考え方が変わった

――映画『シンデレラガール』は伊礼姫奈さん演じる義足の女子高校生モデル・音羽の成長を描いた作品で、辻さんが演じるのは音羽のマネージャー・唯です。出演はオーディションで決まったそうですね。

辻千恵(以下、辻) オーディションの時点でお聞きしたのはストーリーの概要程度だったのですが、実は看護師の八神桜役で受けていたんです。なので、病院にずっといて学校に通えない音羽に、外の世界のことや女性としてのこと、恋愛についてなどを教えてあげるお姉さんみたいなイメージを考えていました。

――オーディションで演じたのも八神桜だけだったんですか?

辻 そうです。ところが後日、「マネージャー役に決まりました」と連絡を受けて、どうしてだろうと。後々分かったことなんですが、私は撮影監督の根岸憲一さんとお仕事で二度ほどご一緒したことがあって。根岸さんが「辻は看護師よりもマネージャー役のほうが合うんじゃないか」と仰ってくれたみたいです。

――オーディションの手ごたえはいかがだったんですか?

辻 それが手ごたえは全くなく、落ち込んで帰った記憶があるんです。だから根岸さんが良く言ってくださったのかなと思います(笑)。

――唯を演じる上で、事前準備などはしましたか。

辻 (私が普段ご一緒している)役者のマネージャーとモデルのマネージャーって立ち位置が違うなと思っていて。私がこのお仕事を始めたきっかけもモデルだったので、そのときにお世話になった雑誌の編集者さんで、マネージャー的なお仕事もやってらっしゃった方がいて、その方にお話を伺いました。あと義足で生活してらっしゃる方とお会いする機会がありました。実は義足の方とお会いする前に、実際に義足モデルをやってらっしゃる方がいるのを知っていたのでコンタクトを取ってお会いしたいなと思っていたんですが、緒方貴臣監督にご相談したら、「それは一旦やめて、辻さん自身で考えてください」という返事をいただいたんです。

――緒方監督としては、そこに役を寄せてほしくなかったのでしょうか。

辻 多分そうなのかなと思います。唯が音羽と一緒に義足の工房に行くシーンがありますが、それまではどちらかというと業務的に音羽にお仕事を持っていくマネージャーだったのですが、義足の工房で気持ちが変化します。その心の変化が、義足の方と撮影前にお会いしたことで、どう表現していいのか分からなくなりました。気持ちがブレてしまって、悩んだりもしましたが、演じていくうちにお会いして本当に良かったなと思いました。

――もしかしたら緒方監督は、そういう葛藤を辻さん自身に体験してほしかったのかもしれないですね。

辻 確かに!そう言われるとそうだったのかもしれません。

――義足の方にお会いしたときは、どんな印象を受けましたか。

辻 洋服を着ていたら義足とは分からないんですよね。義足を外すところも見せていただきました。今はこう暮らしているとか、それまでの過程を教えていただいたり、いろいろなお話を伺って、義足を個性として受け入れていらっしゃるのが伝わってきました。私自身、考え方が変わっていきました

――伊礼さんの印象はいかがでしたか。

辻 「強い」という言葉だけじゃ片付けられないぐらいの強さがある方です。完成した映画を観ると、音羽は強い人間ですよね。伊礼さん自身も十代と思えないほどの落ち着きがあって、私自身が伊礼さんに引っ張っていただきました。タイトなスケジュールだったので、あまりお話する時間もなかったのですが、そこに伊礼さんがいるだけで、音羽がいるって思えたから、こうしよう、ああしようという話し合いも必要なくて。初号試写のときに緒方監督からお聞きしたのですが、伊礼さんはオーディションの順番が最後だったらしいんです。部屋に入って来た瞬間、緒方監督は「音羽が来た!」と感じたらしくて、すごく分かるなと。

――撮影前に緒方監督から、唯についての説明はあったのでしょうか。

辻 最初の本読みのときに、「唯は自分(緒方監督)の分身。自分は普段から黒い服を着るから、唯も黒い服なんだ」というお話をされていて。そのおかげで唯のぼんやりしていた部分が明確になってきた感覚がありました。

――先ほどお話に出た撮影監督の根岸さんはどういう方なんですか。

辻 役者の気持ちを分かってくださる方で、上手く言葉にできないことも役者の目線に立って理解してくださるんです。私は根岸さんがいるだけで本当に心強くて。全てを見抜いてくださった上で、それを画面に映し出してくれるので、根岸さんは神様だと思っています(笑)。今回の映画に限らずですが、監督などの提案にも柔軟で、スムーズに現場を動かしてくださる印象です。

――特に印象的なシーンは?

辻 先ほどお話に出たタクシーのシーンです。音羽と唯が後部座席で話している様子を、根岸さんが助手席に座って撮影していて。狭い空間なので、根岸さんが本当に苦しそうだったんです。何テイクか撮影したんですけど、撮り終わったときに根岸さんが「もう駄目……」みたいな感じで、助手席から地面に崩れ落ちちゃって。でもカメラは守っていて、身を削って撮ってくださっているんだなと、こちらが心配になるぐらいでした。その緊迫感が撮影中も伝わってきたので、自然と私もセリフに感情を乗せることができました。