長く活動してきて去年、初めてお仕事を辞めようと思った

――今年、佐津川さんは俳優デビュー20周年を迎えましたが、これまで辞めようと思ったことはありましたか?

佐津川 実は去年、辞めようと思ったんです。お仕事は好きだけど、いろいろなことが重なって、人間関係で悩んでいたのが大きかったんでしょうね。もともと小さいことも気にしちゃう性格なので、このまま続けるのはしんどいなと思って、お休みをいただき、ゆっくり過ごさせていただいたんです。その間も単発のお仕事はさせていただいたんですが、長期のものはやりませんでした。

――20年間の中で、長期のお休みをとったことはなかったんですか?

佐津川 去年が初めてでした。14歳でこの世界に入ってから長いお休みが欲しいなんて言える立場じゃないと思っていたんです(笑)。でも事務所の方から、「自分で決めていいよ」と意志を尊重してもらいました。

――そのお休みで気持ちも変化したのでしょうか。

佐津川 変わりました。単純にゆっくり生活が出来て気持ちが落ち着いたのもありますし、その期間に東京を出て、名古屋や京都に行ったんですが、久々に新体操をやっていたときの後輩とお茶をしたんです。その子は「おいしい映画祭!」など、名古屋で映画祭を企画するお仕事をしているんですが、ずっと私の映画祭をやりたいと言ってくれていて。「20周年というタイミングの今やりましょう!」と言ってくれて。自分から20周年で何かをやろうとは思っていなかったので、私の活動を見てくれて、そんなことを言ってくれるなんて、本当にありがたいことだなと。

――それが4月22日から始まる「佐津川愛美 映画祭」なんですね。

佐津川 はい。映画祭の準備を進めているときに、パンフレットなどはどうするかというお話をしていく中で、自分に何ができるのか、何がしたいのかを、考えたんです。そのときに、私は映画でデビューさせてもらって、映画に育ててもらってきたので、だいそれた言い方になってしまうんですが、何か映画業界のお役に立てるようなことをしたいなと思ったんです。それで、本を作ろうと決めて、企画の立ち上がりから、撮影、編集、配給、宣伝、劇場公開、映画祭と映画に携わる、あらゆる部署の方々にお話を伺い、映画が作られて公開されるまで一連の流れが分かるような内容にしました。

――俳優ではなく、裏で支えるスタッフの方々に目を向けた本なんですね。

佐津川 『蝉しぐれ』でベテランスタッフの方々に感動したのが私の原点で、日頃からみんなで映画を作っているなと思っています。俳優と監督だけが表に出がちですが、それだけでは絶対に映画はできないもの。たとえば映画業界に興味を持ってくれたとしても、どういう仕事があるのか、あまり知る機会がないと思ったんです。なので私がデビューした年齢ぐらいの方々にも読んでいただける本を作りたいなと思いながら制作している最中で、5月末に発売予定です。

――現役の俳優さんがスタッフの方々にインタビューする本は貴重ですね。

佐津川 知らないことばかりで面白かったですし、取材を通して、我々のようなたくさんの人が関わって成立している仕事は、お互いのことを知ることが一番大事だなと改めて感じることができました。

Information

『毒娘』
新宿バルト9ほか全国公開中

佐津川愛美
植原星空 伊礼姫奈
馬渕英里何 凛美 内田慈 クノ真季子
竹財輝之助

監督:内藤瑛亮
ちーちゃんキャラクターデザイン:押見修造
脚本:内藤瑛亮 松久育紀
音楽:有田尚史
©️『毒娘』製作委員会2024

夫(竹財輝之助)と娘の萌花(植原星空)と3人で中古の一軒家に越してきた萩乃(佐津川愛美)。家庭に恵まれなかった彼女にとって、夢に見た幸せな家庭。しかし、ある日外出中の萩乃に、娘の萌花の悲痛な声で助けを求める電話がかかってくる。「ショートケーキとコーラ、買ってきて」。慌てて帰宅した萩乃が目にしたのは、荒れ果てた我が家と洋服をずたずたに切り裂かれた萌花、そして萌花に馬乗りになって大きな鋏を握りしめた見知らぬ少女の姿だった。その少女の名前は<ちーちゃん>(伊礼姫奈)。かつてこの家に暮らしていたが、ある事件を起こして町を去ったはずだった。彼女の存在は、一見幸せに見えた萩乃たち家族が押し隠そうとしていた「毒」を暴き出し、悪夢のような日々の幕開けを告げる……。

公式サイト
X

佐津川愛美デビュー20周年記念企画
「佐津川愛美 映画祭」

開催期間:2024年4月22日(月)~4月26日(金)
場所:ヒューマントラストシネマ渋谷

公式サイト

佐津川愛美

1988年8月20日生まれ、静岡県出身。14歳から芸能活動を開始し、2005年に『蝉しぐれ』で映画デビューし、同年、第48回ブルーリボン賞助演女優賞にノミネートされる。2007年には、映画『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』で第50回同賞の助演女優賞と新人賞の2部門にノミネート。2022年には、前期放送予定のNHK連続テレビ小説『ちむどんどん』に出演するなど、TVドラマ、映画、舞台と幅広く活動。近年の映画出演作に『ヒメアノ〜ル』(16)、『ユリゴコロ』(17)、『コンフィデンスマンJP -ロマンス編-』(19)、『鳩の撃退法』(21)、『明け方の若者たち』(21)、『アナログ』(23)、『ゆとりですがなにか インターナショナル』(23)などがある。読売テレビ系「約束~16年目の真実~」が放送中。映画「バジーノイズ」、映画「かくしごと」の公開も控えている。さらにデビュー20周年を記念して4月22日(月)~26日(金)まで「佐津川愛美映画祭」が開催され、5月には著書も出版される。

PHOTOGRAPHER:YUU TOMONO,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI