役作りに必要だと感じて自ら半年かけてダイエットを敢行

――『夢の中』が初主演映画になりますが、オファーがあったときのお気持ちはいかがでしたか。

山﨑果倫(以下、山﨑) 一言で言うと、驚きでした。「どうして?私でいいの?」みたいな感じで、何度もマネージャーさんに確認しましたし、現実と捉えるまでめちゃめちゃ時間がかかりました(笑)。

――本作が商業デビューとなる都楳勝(つうめ・まさる)監督とは面識があったんですか?

山﨑 都楳監督の短編映画『蝸牛』(2019)が大好きで、映画祭でご挨拶させていただいたのが初対面でした。そこで『蝸牛』が大好きなことをお伝えさせていただいたんですが、そのときのことを都楳監督も覚えてくださっていて。私が主演を務めるのを知った上で、「感動シネマアワード」に応募してくださったんです。だから映画初主演が決まった後に、都楳監督が私宛に企画を出してくださったと知って、二重の喜びでした。独特な世界観に憧れがあったから、都楳監督の作品に自分が入れるのはうれしかったです。

――『蝸牛』に惹かれた理由は?

山﨑 中学生の性や生きづらさを中心に描いているんですが、セリフに頼らず、ラベリングしていないところが、余白があって良かったんです。主人公の女の子は相手の男の子が大好きで、強いエネルギーを発しているけど、人と人が関わるのは複雑で。それを思春期特有の温度に混ぜて描いていて、映画を観るのも作るのも好きなんだろうなと、映画に対する愛がひしひしと伝わってきましたし、私自身もエネルギーをもらいました。

――『夢の中』は要約するのが難しいストーリーですが、初めて脚本を読んだときの印象はいかがでしたか。

山﨑 おそらく私を含めたキャスト全員が、脚本を読んだだけでは、この映画が説明できなかったと思います。『夢の中』というタイトルそのままに、抽象的な表現でしか表せないんですが、自分なりに一生懸命解読しました。

――ちょうど一年前にSTREAMでインタビューさせていただいたときに、この映画のために6キロ減量したと仰っていましたよね。

山﨑 約半年間かけてウォーキングと食事制限で痩せたんですが、誰かから命じられた訳ではなく、役作りに必要だと感じて自らダイエットしました。というのも衣装合わせのときに、キャミソールなど布が少ない衣装が多くて。ムチっとしていると、女性らしいフォルムに見え過ぎてしまうと思ったんです。私の演じたタエコは浮世離れしていて、空気に溶け込んでいるというか。この人は本当に存在しているのだろうかと、おばけのように儚げな佇まいにしたくて、あばらが見えるまで痩せないと、その方向性にはならないなと。それで骨が見えるまで痩せたら6キロ減っていました。

――半年間も体作りに時間をかけると、役への没入感もすごかったのではないでしょうか。

山﨑 ずっと役のことを考える時間になりました。おのずと役に近づいている感覚もあったので、体作りから入るのは役にコミットするやり方だなと思いました。

――表情も儚さが漂っていました。

山﨑 笑っても駄目だし、ちょっと力んでも生気が宿り過ぎるということで、なるべく無気力な雰囲気で、基本的に表情筋を動かすのもNG。もともと私は表情に出やすいタイプで、動作も大きいから苦労しました。

――表情以外で意識したことはありますか。

山﨑 心情変化の部分です。私は感受性も開いているほうで、大抵の人が気にも留めないような景色にもぐっとなりやすいんです。だから、何も思わないように意識的にスイッチを切って、感情を閉じる練習もしました。本番中も相手役のショウのセリフを聞きすぎないようにして。ちゃんと聞いてしまうと、心が動いて表情に出てしまうんですよね。

――カメラが回っていないときはいかがでしたか。

山﨑 ショウ役の櫻井圭佑さんとは、多少の世間話はしていましたが、お互いに親密になるような会話は避けていた気がします。都楳監督とも必要最低限の会話だけでしたし、現場に来てくださったマネージャーさんも気遣ってくれて、「なるべく遠くにいるから、何かあったときだけ呼んで」と一人にしてくれました。そうやってコミュニケーションを取り過ぎないようにしてタエコになり切るようにしていました。