ワンカット生ドラマで鈴木保奈美さんの熱意が伝わってきた
――今回出演する舞台『逃奔政走(とうほんせいそう)-嘘つきは政治家のはじまり?-』の発端は、ギャラクシー賞奨励賞も受賞した2022年のフジテレビ年末特番『東京は24時』の第一夜「シンガロング!」だったそうですね。
相島一之(以下、相島) 「シンガロング!」は冨坂友さんが脚本・監督、主演が鈴木保奈美さんで、僕も出演したんですが、生放送の歌番組の裏側をワンカットで一発撮りする生ドラマ。頭から終わりまでカメラを回しっぱなしで一つのドラマを作り上げる演劇みたいなドラマで、このタイミングで誰が動き始めて、カメラワークはこういう感じで、スタッフがこう動いてというリハーサルを重ねて、本番に臨みました。
――多忙なキャストばかりでしたから、リハーサルで顔を合わせるのも大変だったのではないでしょうか。
相島 全キャストがリハーサルに参加できないときは、冨坂さんが主宰するアガリスクエンターテイメントの方々が代役を務めてくれたんです。カメラワークを固めていって、そこに本役の人も入って、リハーサルを重ねて。そういうことを何度も何度もやって生ドラマを作っていきました。
――「〇分あたりで相島さんがフレームインして」と時間も綿密に決まっている訳ですよね。
相島 決まっています。まず台本通り動いてみて、時間を計っていく。そうすると大体のタイミングが分かってくるので、微調整をしていくんです。
――本番の緊張感も凄まじかったでしょうね。
相島 ぶっつけ本番ですから、緊張感はあります。基本的に時間が押してもいけないですから。ただ生ドラマ終わりに「反省会延長戦」というアフタートークがあるから、大惨事が起こっても、そこで「大変だったね」と振り返るという保険は一応かけているんです。でも結果的にミスはなかったです。誰も失敗しようと思ってやっていないですからね。
――主演を務めた鈴木保奈美さんのお芝居はいかがでしたか。
相島 鈴木保奈美さんがやっているドラマの裏側で、歌番組が進行しているという二重構造なので、二つの作品を同時進行させて、それをリンクさせながら生放送するという複雑な内容。正直、僕は絶対に失敗するだろうなと思ったんですよ。仕事は受けているからベストは尽くすけど、みたいな。ところが、僕はスケジュールの関係で最初の何回かリハーサルに参加できなくて、カメラテストで撮ったリハーサルの動画をいただいたんですが、それを観たときにびっくりしたんです。ちゃんとできているんですよ!ひとえに鈴木保奈美さん、一緒にW主演を務めた藤原丈一郎さん、お二人の努力のたまもので、完全にセリフを入れて、完全に芝居を作り込んでいたんですよね。これは僕も気を引き締めて臨まないといけないなと。お二人の熱意が「シンガロング!」を成功に導きましたし、保奈美さんのお芝居から、この作品にかけてらっしゃる熱量が伝わってきました。
――それまで冨坂さんとお仕事した経験はあったのでしょうか。
相島 2020年、コロナ禍になったとき、演劇は完全にストップしてしまいました。そのときに私の俳優仲間である近藤芳正が「オンラインで芝居をやらないか」とリーディング公演に誘ってくれました。三谷幸喜を巻き込んで、僕も所属していた東京サンシャインボーイズの作品『12人の優しい日本人』のWeb版をやろうという話でした。劇団員みんなのスケジュールも丸々空いていたので、東京サンシャインボーイズで上演したときのオリジナルキャストと、吉田羊ちゃんにも参加してもらって、YouTube Liveで生配信をしました。そのときの演出を冨坂さんにお願いしたんです。冨坂さんは東京サンシャインボーイズを大好きでいてくださって、オマージュを捧げた作品を幾つも作ってくださっているので、親和性が高かったんですよね。そのときから的確で緻密な演出をする方という印象でした。
――冨坂さんの演出に、東京サンシャインボーイズの影響を感じる部分もありましたか。
相島 この人は、こういうキャラだから面白いというのを徹底的に考えて、このキャラはこういう風に追い詰められたら、そこにコメディとしての面白さが出てくる、みたいな。そうやってキャラクターの面白さにこだわるところは、僕らがやっていたことと共通しているなと思います。
――『逃奔政走』に先駆けて、今年3月27日に前日譚となる「生ドラ!東京は24時 -Starting Over-」が放送されましたが、このときもフジテレビの湾岸スタジオ内を隅々まで使ってのワンカット生ドラマでした。
相島 「シンガロング!」よりも出演者の数が多かったので、それをまとめる大変さはあったと思うんですが、出演者それぞれの負担は若干少なくなるんですよね。それに2回目ということもあって、僕のように前作から引き続いて出演した俳優は要領も分かっているので、1回目よりは余裕があったと思います。