奨学金に対するイメージが壊されたような、現実を突き付けられたような感覚があった

――映画のオファーがあったときのお気持ちはいかがでしたか。

田淵累生(以下、田淵) 僕自身が奨学金を借りている身で。まさか奨学金を題材にした作品のオファーが来るなんて思ってもいなかったです。脚本を読ませていただいて、僕の中で奨学金はマストだと思っていたんです。奨学金は借金であって、基本的に40歳前後で返済し終わるというのを初めて聞いて、今の学生はこれぐらいの苦労をしているんだとリアルに感じました。そうだよな、当たり前だと思っていたものが当たり前ではなくて、勝手に思い込んでいた奨学金に対するイメージが壊されたような、現実を突き付けられたような感覚もありました。僕がそう感じたということは、奨学金を借りた経験のある人は全員が思うことだろうし、素敵な映画になるだろうなと思って、ぜひ出演させてくださいとお伝えしました。

――田淵さんの周りにも奨学金を借りている方は多かったんですか。

田淵 多かったです。大学在学中は返済がないから借金をしている実感もないけど、卒業後に苦労している方が多くて。僕自身そうだったんですけど、学生期間中は重いものとして捉えてないんですよね。若いときは就職しても、そんなに給料ももらえないので、生活が苦しい中で奨学金の返済をするってとんでもないことだなと。

――田淵さんが演じた水江聡太は、奨学金を背負うも、クラウドファンディングで一気に返済をした青年という役どころです。

田淵 早い段階から奨学金制度というものがおかしいと気づいて、クラウドファンディングによって1ヶ月で返済するんですが、そんな大学生は稀ですよね。

――演じる上で、どんなことを意識しましたか。

田淵 そういう並外れた行動力があって、当たり前のことを当たり前と思わない人間を演じる上で考えたのは、普通の人とはかけ離れていて、ちょっと鼻につくイメージなのかなと。鼻につく理由としては、正しいことをストレートに言っているからなんですよね。そんなことを意識しました。僕には東大出身の友達がいるんですが、会話をしていると、ちょっとしたズレが生じるんです。なぜかというと相手が賢いからこそ、こちらは頷くことしかできなくなって。こちらが劣っていると感じているから、おそらく鼻につくんですよね。その友達も参考にしながら、喋り方なども含めて、役作りをしました。

――撮影現場の雰囲気はいかがでしたか。

田淵 僕は舞台を中心に活動しているんですが、共演者は年上の方が多いんですよね。今回は若いキャストがメインで、みなさんのお芝居を見ていると、自分の中で凝り固まっている部分に気付かされたというか。今の若い子たちの考え方や感じ方を間近で見て面白かったですし、勉強させてもらった現場でした。

――なるせゆうせい監督の演出はいかがでしたか。

田淵 僕へのオーダーが「水江はチェ・ゲバラのような革命家であってほしい」ということだったので、それを聞いて自分なりに考えて演じたんですが、現場で何か言われることもなかったので、自由にやらせていただきました。

――チェ・ゲバラと言えば、デモのシーンが印象的でした。

田淵 僕の初日が、まさにデモのシーンから始まったんです。実際に都心でデモをして、水江は奨学金を借りた身でありながら、「奨学金反対!」と訴えました。一般の方々がいる中でのデモだったので良い経験ができました。

――ご自身が奨学金を借りていたからこそのリアリティがあるなと感じました。

田淵 実際に経験しているからこそ大学生の空気感も分かっていますし、周りに悩んでいる人もいますし、お金に困っている人もいますし。そういう人を間近で見てきたからこそ、それを水江に昇華して異議を唱えることができたのかもしれません。水江は普通の大学生ではないかもしれませんが、僕が大人になって感じた奨学金制度のおかしさを、水江という代弁者で発信できたと思います。