『裸足で散歩』の再演が決まって責任とプレッシャーで押しつぶされそうな日々だった
――『裸足で散歩』が2年ぶりの再演となり、前回に引き続きコリー役を演じます。いつ頃、再演のお話があったんですか。
高田夏帆(以下、高田) 『裸足で散歩』の初舞台が終わって一年以内だったと思うんですが、割と早い段階で再演のお話をいただいて、「早っ!」と思いました。好評で再演が決まったということでうれしい反面、私にとって初舞台だった初演を超えないといけないので、違うものを見せなければいけないという責任とプレッシャーで押しつぶされそうな日々でした(笑)。
――初舞台はいかがでしたか。
高田 ずっと映像の世界でお芝居を頑張っていたので、舞台上に立ってお芝居することに関しては赤ちゃん状態でした。顔の向き、体の向き、立ち位置など、何一つ通用しないんです。武器を持っていたようで、何も持っていなくて、それこそ裸足で挑んだような初舞台でした。稽古期間中も最初は殻に閉じこもって、一人で黙々と台本だけを読んでいるような状態。でも、すぐに演出の元吉(庸泰)さんが「一人で閉じこもるのは駄目ですよ」と声をかけてくれて、引きずり出してくれました。それでも毎日、泣きべそをかきながら稽古をやっていましたね。
――自分を出せたのは、どのタイミングだったんですか。
高田 正直、私自身を出せたのは上演が始まってからで、稽古中は影すら消すような日々でした……。こんな小娘が、お芝居以外のことをしゃべっちゃいけないんじゃないか。余計なことをしゃべる暇があるんだったら、お芝居と向き合えと思われるんじゃないか、みたいな。実際は全然そんなことがなくて、優しい共演者の方々ばかりだったんですが、そう思い込んでいたんです。ただポール役の加藤(和樹)さんが緊張をほぐしてくれるように、本番前におちゃらけてくれることが多くて、徐々に溶け込んでいけたように思います。
――映像と舞台では発声方法も全く違ったかと思います。
高田 違いました。『裸足で散歩』はマイクを使わないので、お腹から声を出す必要があるんです。加藤さんに発声のトレーニング法を教えてもらって、稽古前は発声練習に付き合ってもらって。トレーニング法を録音した音声も送ってくださったので、毎日やって喉をほぐしていました。発声面でも加藤さんに支えてもらいましたね。
――加藤さんが親身になって教えてくれたんですね。
高田 稽古中に声を出しすぎて、本番で声が出なくなったら元も子もないので、真摯に向き合ってくださいました。
――初めて『裸足で散歩』の脚本を読んだときの印象はいかがでしたか。
高田 とにかくセリフが多くて、ずっとしゃべっている会話劇で大変だなと(笑)。私が演じたコリーに関しては天真爛漫で猪突猛進、まさにイノシシみたいな女性。我も強いんですが、壊れやすいところもあって、二面性があるなと思いました。すごくわがままで、文字で読むと憎たらしいんですけど、夫のポールと掛け合うと憎めなくて、愛される女性なんですよね。だから私も愛される人にしなきゃいけないと意識しながら演じました。
――それまでニール・サイモンの存在は知っていましたか?
高田 それが知らなかったんですよね。舞台の知識が何もなくてすいませんという気持ちでした。去年、『スライス・オブ・サタデーナイト』という作品で初ミュージカルをやらせていただいたんですが、相手役の一色洋平さんが、「僕はニール・サイモンの『裸足で散歩』が初めて見た戯曲だから羨ましいよ」と言ってくださって。それぐらいニール・サイモンの作品は有名で、憧れている方が多いんだなと再認識しました。
――ニール・サイモンといえばコメディですが、その辺はいかがでしたか。
高田 稽古期間中、台本を読み込んでお芝居をしているときは、そこまでコメディを意識しなかったんです。描かれているのが1960年代の冬のニューヨークなので、時代性も違うし、出てくる単語なども難しい印象でした。観劇してくれる友達にも、「分からない会話がちょいちょいあるかもしれないし難しい舞台だよ」と伝えていたんです。ところが実際に観てくれた感想は、「すごく理解できたし、お話の展開も面白かったし、たくさん笑った」というものばかりだったんです。稽古中はクスリともしなかった場面で、お客さんがケラケラ笑うみたいなことがたくさんあって。演じている私たちには分からない、観た人にしか分からない面白さがたくさんあるんだろうなと感じました。
――それだけ良い反応だと自信にも繋がりますよね。
高田 本番を迎えるまでは、自分なりに頑張ってきたけど、初舞台というのもあって自信もなかったんです。ところが初日からお客さんがめちゃくちゃ笑ってくれたので、これがコメディなんだ、これがニール・サイモンの作品なんだと身に染みました。