監督と自分の熱意がピッタリ合った

――主演映画『雪子 a.k.a.』で、ラップをする教師・雪子を演じていますが、もともとヒップホップに興味はありましたか?

山下リオ(以下、山下) ヒップホップは好きでしたし、カルチャーにも興味がありました。知識は少ないですが、映画『8 Mile』をきっかけにエミネムが好きになって、未だに「Lose yourself」は聴いていますし、有名なヒップホップの曲は日頃から聴いていて、『フリースタイルダンジョン』も観たりしていました。今回の映画主題歌「Be Myself」に参加されているポチョムキンさんの在籍する餓鬼レンジャーも昔から聴いていたので、レコード屋で餓鬼レンジャーのレコードを手に取るシーンは、私のアドリブでそこに監督が台詞を付け足してくれたんです。まさか主題歌を歌っていただけるとは、感激です!

――どういうときにヒップホップを聴くことが多いのでしょうか。

山下 撮影現場に入る前とかですね。昔の私は雪子と似ているところが多かったんです。

人に気を遣いすぎて何も言えなくなってしまったり、物事をネガティブに捉えることも多くて……。俳優という職業ではありますが、そもそも人に見られることが苦手なので、お芝居したい気持ちとは裏腹に、お芝居以外の時間は自分自身と戦っている時間が多かったんです。ヒップホップを聴くと、弱い自分に喝を入れてもらえるような気がします。

――オファーがあったとき、ラップをする役ということでプレッシャーはなかったのでしょうか。

山下 最初にいただいた台本には、「ラップする」とだけ書かれたページもあり、この映画にとってラップをするシーンは特に重要になってくるとも思っていたので、現状でリリックの見えない不安はありました。でも、音楽劇やミュージカルに出させていただいたこともあって、歌は大好きでしたし、舞台でも音楽の中から見つけられる新しい感情や表現など、ストレートなお芝居にはない面白さも感じていたので、ラップというまた別のジャンルでありますが、芝居×音楽のワクワク感のほうが強かったです。

――独立というターニングポイントの直後にオファーがあったそうですね。

山下 そうです。当時は、未来への漠然とした不安の中でもがいている時期でした。コロナ禍で大切な人たちとの死別を経験し、俳優としても一人の人間としても、自分の居場所が分からなくなっていたんです。以前所属していた事務所にも良くしていただいていましたが、もっと頑張れるはずなのに逃げてきたような気もしていました。それならいっそ独立して、仕事がなければこの仕事を諦められるきっかけにもなると思いました。そんなときに、草場監督からオファーの連絡をいただいたんです。これが最後の仕事になってもいいから、俳優として命をかけて頑張ったと言える作品にしたいなと思いました。

――熱いですね。

山口 はい、熱い人間なんです(笑)。今作は草場尚也監督にとっても、劇場用映画初監督作品ですし、お互いの熱意がピッタリ合ったというか。初めての経験なんですが、脚本に関して私からも、いろいろな意見を言わせていただきました。と言っても、そもそも素晴らしい脚本なので、ちょっとした提案などですが。それが実現できたのは、みんなの意見を取り入れてくれる草場監督だったからこそだと思います。俳優としても人間としても雪子と一緒に成長させてもらった感覚があります。

――初めて脚本を読んだときの感想はいかがでしたか。

山下 オファーをいただいたとき、私は30歳になったばかり。雪子もまた30歳という節目の歳に、今までの自分、そして未来の自分と向き合っていきます。先ほどお伝えした通り、独立することで自分を変えようとしていた当時の私は、雪子に共感しかなかったです。そして、教師がラップするという、想像もつかない展開が、あまりにもリアルに生活感を持った文章で描かれているところにとても惹かれました。ところどころ心を突き刺すような言葉もまた魅力的で、良い映画になる予感しかしなかったです。