やりたいことがない=ダメじゃない。大切なのは、何でも面白がる精神
――入野さんは一貫してドラマや舞台の仕事も積極的に取り組んでいますよね。
入野 声の仕事をいただく機会が多かったですが、もともとは児童劇団から始まっていますから。表現をすること自体が好きだし楽しいので、幅広い活動をしたいというのは常にあります。その中で新しい出会い、新しい発見、新しい刺激もたくさんあるので、今後もいろいろ挑戦していきたいです。
――挑戦ということでは、2017年に海外留学もされました。
入野 海外のカンパニーが日本公演に来る時、トップキャスト全員が来るわけじゃないんですよ。時には3番手、4番手の人たちが来ることもあるんです。それなのにあれだけ完成度の高い公演ができるというのは、すごく悔しいというか。そういうのもあって、本場を体感してみたいと思ったのがきっかけです。
――留学先はどちらに行かれたのでしょうか?
入野 メインはイギリスです。日本でイギリスの演出家と何度かご一緒して、イギリスの演劇に興味を持っていたんです。あとは、いろんな劇場のいろんな演劇を観てみようと思って、バックパッカーのようにヨーロッパを廻ってました。
――実際に行ってみて、いかがでしたか?
入野 まずお客さんの空気が違いました。文化として根づいているというか、演劇が日常の一部になっているんです。ワークショップを受けた時も、参加者の中にはプロの方もいれば主婦の方も普通にいました。それでいてロジカルというか、こういう時はこうやってアプローチするといい、みたいこともしっかり学べるのがすごく新鮮でした。プロになる・ならないは別として、ただ楽しんでいる。演劇が身近なものなんだというのがよく分かりました。
――現地で生活するうえで「言葉の壁」を感じることはありましたか?
入野 言葉を全て理解できたわけではないですけど、そういう環境に身を置いて生活することが大事というか。言葉が分からないからこそ見えてくる部分もあるので、そういう意味でも行って良かったと思います。
――当時のご経験は、演技にも活かされているのでしょうか?
入野 演技への影響は分からないですが、何かを観た時にこれは好き、これは嫌いという、自分なりの価値観はそこで養われた気がします。若い頃は、自分でも何が好きで何が嫌いか、よく分かってなかったと思うんです。みんながすごいと言うからそうなんだろう、みたいな。でも今は自分の中に明確な軸があるので、精神的な部分で良い影響を受けたと思います。
――最後に、進路を考えているティーンの読者に向けて、メッセージをお願いします。
入野 僕自身、何か明確な目標があったわけでもなく、たまたま続いたことが今、仕事になっているだけなんです。だから、やりたいことがない=ダメってことじゃないと思っていて。大切なのは楽しむ力というか、興味を持って面白がれる精神なんじゃないかなと。特別好きなことでなくても、続けていくうちに好きになって、仕事として成立するものがあるかもしれないから。
――難しく捉えずに、目の前のことにとりあえず乗ってみる、と。
入野 20歳の頃に「今からダンスをやっても遅いよな」と挑戦しなかったんです。でも全然そんなことなかったし、あの時やっていればって思うこともあるんです。それと同時に、今からでも遅くないという気持ちもあって。なので、ちょっとでも面白そうだと思ったら、とりあえずやってみてほしい。できない理由を探すより、失敗を含めて何が得られるかを大事にしてほしいですね。
Information
PARCO劇場開場50周年記念シリーズ「夜叉ヶ池」
2023年5月2日(火)~5月23日(火)
キャスト:勝地涼、入野自由、瀧内公美、那須凜 ほか
大正2年の夏、激しい日照りが続くとある地方の村に、諸国を旅する学士の山沢学円(入野自由)という男がやってきた。のどの渇きを覚えた山村は、とある家にお茶をお願いし、 めぐんでくれた娘・百合(瀧内公美)に話をしはじめる。萩原晃(勝地涼)という友人の学者が各地に伝わる不思議な物語の収集に出たまま行方知れずになり、その足跡を辿っていた。するとそこに現れたのが、今では百合の夫となっていた萩原であった。久々の再会を喜ぶ山沢に、萩原は自分がこの地に住み着いたいきさつを語るのだった……。
PHOTOGRAPHER:YU TOMONO,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI,HAIR&MAKE:YOUSUKE ASAZU,STYLIST:YUYA MURATA