「身毒丸」を観て自分も舞台に立ちたいと思った
――舞台が楽しいと思うようになったのは、いつ頃からですか?
勝地 15歳の頃です。同じ事務所の先輩の鈴木杏ちゃんが出演していた蜷川さんの稽古場を観る機会があって、その時の緊張感と迫力は今でも覚えています。蜷川さんの舞台を初めて観に行ったのは白石加代子さんと藤原竜也くんが出ていた「身毒丸」でした。何の話をしているのか、よく分からなかったけど、とにかく圧倒されて、「なんてすごいものを観たんだろう、自分もあそこに立ちたい」という気持ちになりました。
――いろいろな作品で活躍されていますが、ターニングポイントになった作品を教えてください。
勝地 蜷川さんと出会った後に、映画『亡国のイージス』で素晴らしい役をいただき、日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞しました。その後「阪本順治監督が使った役者なら」とオファーをいただきましたが、当時は自分がいけてると勘違いしていたんでしょうね。何も残せなかったんです。「さとうきび畑の歌」という戦争ドラマで、明石家さんまさんの息子役を演じたことで話題にもなりましたが、そこでも結果を出せなかった。悩んでいた時に出会ったのが古田新太さんだったんです。劇団☆新感線の舞台に出させていただき、そこで共演者として宮藤官九郎さんにもお会いしました。古田さんから「お前は自分で頭がいいと思ってるみたいだけどバカだよ」といじってもらうようになってから、素直に演じられるようになりました。僕が21歳の時です。
――劇団☆新感線は特別な存在だと。
勝地 はい。劇団☆新感線は、稽古に1ヶ月、大阪の舞台に1ヶ月、東京の舞台に1ヶ月とか、とにかく一緒にいる期間が長いんです。その間、毎日古田さんといて、劇団員の人たちからも可愛がっていただいたので、大好きな劇団です。
――宮藤官九郎さんは?
勝地 宮藤さんとは楽屋も一緒で、いろんな話をしていました。その時に宮藤さんが書かれていたのが「未来講師めぐる」というドラマの脚本で。深田恭子ちゃんの彼氏役を「年下のバカな男の子」という設定で書いているうちに役が僕のイメージになってしまったようで(笑)。当時の僕は深田恭子ちゃんの相手役になれるような立ち位置にいなかったのに、「宮藤さんが言うなら」とプロデューサーの方が了承して、僕が演じることになりました。その作品をきっかけに「勝地は三枚目もできる」という評価が広がっていったので、本当に感謝しています。
――俳優の仕事がうまくいかなかった時、他の道を考えたことはありましたか?
勝地 何だかんだ言って、この仕事が好きなのか、違うことやろうと思ったことはないです。実家が東京なので、電車代がなくなっても徒歩で帰れるから、切羽詰まったことがないのかもしれません。そういう意味では親にも感謝しています。
――同期が活躍していることへの嫉妬心みたいなものはありましたか?
勝地 それは、めちゃくちゃありました。大手の事務所を羨ましいと思ったこともありましたが、そんなの言い訳でしかないんですよね。どの事務所に行っても売れる人は売れるし、売れない人は売れない。今も羨ましいと思う気持ちもありますが、それよりも「それをするためには何をやったらいいんだろう」と考えることが増えました。昔はよく同世代で集まって熱い話をして、相手を否定することで、自分を肯定したりしていましたが、最近は減りました。夜中の2時ぐらいによく分からない内容で喧嘩するのは意味がないので、減ってよかったです(笑)。もちろん、作品を作る上で、言わなきゃいけないことはきちんと言うようにしてます。
――この記事を読むティーンに、進路についてアドバイスやメッセージをお願いします。
勝地 ティーンかぁ、羨ましいです。僕は、やりたいと思ったことをやったほうがいいと思います。この間、若い俳優さんと話した時に、「4月期の連ドラが決まるかどうか分からないけれど、この間を利用して留学しようと思っています」と言っているのを聞いた時に、その発想に震えちゃいました(笑)。めちゃくちゃしっかりしていて、カッコいいなと。昔は僕も事務所の人に「時間があるんだったら世界を見たほうがいいよ」と、散々言われていたんです。「そうっすね~」と適当に返事をしていましたが、あの時何ですぐに行動に移さなかったんだろうと、今になって後悔しています。だから、大人の人が言うことは、ちゃんと聞いておいたほうがいいし、やりたいと思ったことはすぐに行動に移すようにしたほうがいいと思います。
Information
PARCO劇場開場50周年記念シリーズ「夜叉ヶ池」
2023年5月2日(火)~5月23日(火)
キャスト:勝地涼、入野自由、瀧内公美、那須凜 ほか
大正2年の夏、激しい日照りが続くとある地方の村に、諸国を旅する学士の山沢学円(入野自由)という男がやってきた。のどの渇きを覚えた山村は、とある家にお茶をお願いし、 めぐんでくれた娘・百合(瀧内公美)に話をしはじめる。萩原晃(勝地涼)という友人の学者が各地に伝わる不思議な物語の収集に出たまま行方知れずになり、その足跡を辿っていた。するとそこに現れたのが、今では百合の夫となっていた萩原であった。久々の再会を喜ぶ山沢に、萩原は自分がこの地に住み着いたいきさつを語るのだった……。
PHOTOGRAPHER:TOSHIMASA TAKEDA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI,HAIR&MAKE:TAICHI NAGASE(VANITES),STYLISTHIROTAKA KAJIWARA