一人で自由に行動することの延長線上に旅があった

――初のエッセイ本『じゆうがたび』を読ませていただきましたが、“旅”を起点に過去を振り返る内容で、記憶力の良さに圧倒されました。

宇賀 小学校高学年ぐらいから、どんな日だったのか、何を思ったのかを手帳に書き続けていて、それを遡って読み返しました。自分の中で運命が動く瞬間や、大事な決断は旅の中にあることが多いので、その時の日記や写真を見ながら書いていきました。

――旅が好きになったきっかけは何だったのでしょうか。

宇賀 二十歳の時に一人で1ヶ月、LAに行ったのが大きかったです。家族にも国内の旅にはよく連れて行ってもらいましたけど、自分で決めていないのであんまり鮮明に覚えていなくて(笑)。でも一人で決心してアメリカに行ってみて、旅に目覚めてしまって。そこからは自分で何でも決めるようになりましたし、どこに行って、何をしたかは、しっかり覚えています。

――海外に憧れはあったんですか?

宇賀 周りに帰国子女や留学経験のある友達がちらほらいたので、憧れはありました。ただ、大学生活も楽しすぎたので、長期間海外に行くという決断はできなくて。春休みを利用して、とりあえず1ヶ月アメリカに行ってみようと思ったんです。知らないことを知りたい、見たことのないものを見てみたいという欲は、小さい時から人一倍強かったんですよね。

――昔から一人で行動することに抵抗感はなかったんですか?

宇賀 全くなかったです。お買い物も一人で行くほうが楽ですし、一人でご飯を食べるのも飲みに行くのも平気。自分の好きなタイミングで好きなところへ行きたいんです。美術館も、気に入った作品があったらずっとそこにいることができるし、ペースを気にせずに回れるから、一人で行くほうが好き。その延長線上に旅があったんですよね。もちろん家族や友達と行く旅も楽しいですけどね。

――どういう経緯で、『じゆうがたび』を執筆することになったのでしょうか。

宇賀 実はフリーランスになったタイミングで、いくつか「本を出しませんか?」というお話をいただいたんです。でも、その当時に書いてしまうと、局アナ時代までしか振り返れない。それで「フリーランスになって少なくとも3年経ってから書きたいと思います」とお伝えしていたんですが、ずっと待っていてくださった編集者の方と、昨年の春頃から本腰を入れてやりましょうというお話をして。ちょうどコロナ禍も落ち着いてきて、皆さん旅に出たくなるタイミングで出版するから「旅というテーマでどうですか?」と言われて、「なるほど、その手があったのか」と。

――宇賀さんから旅というテーマを提案した訳ではなかったんですね。

宇賀 そうなんです。確かに旅をテーマにしたら、自分の人生をしっかり振り返ることができるなと思いました。

――『じゆうがたび』に読書好きであることを書いていますが、書くことは得意だったんですか?

宇賀 ずっと日記を書いていましたし、連載の仕事は局アナ時代にも経験していました。スポーツキャスター時代は朝日新聞で連載をしていましたが、それは聞き書きで記者の方が書いてくださっていたので、今回は自分で書きたいというのもありました。

――書き下ろしで1冊書く作業はいかがでしたか?

宇賀 大変でした。読むのはこんなに楽しいのに、書くのはこんなに辛いとは……。当初は「なんとなく夏ぐらいまでに書き上げましょう」と言っていたのに、全然進まなくて。本の中にも出てくる8月のスイス旅から帰ってきた後に、編集者の方から「そろそろ本気を出さないとヤバイです」と言われてしまって。「分かりました」と、9月10月は全ての飲みのお誘いをお断りして、仕事以外の時間は、ずっと机に向かい続けました。そこから、何度か校正チェックがあって、年末までになんとか全て終えることができました。ただ書き始めたら筆が進んで、最初は300ページ分ぐらい文字量があったんですよ。でも、今は本を読み慣れてない人も多いから、一つひとつの文章を短くして。バッサリ削った旅のエピソードもありますが、結果的にそれでちょうどよかったかなと思います。

――辛かった経験もネガティブな印象はなく、読後感が爽やかでした。

宇賀 ありがとうございます。ある時に自分でポジティブに生きると決めちゃったんで、あんまり嫌なことは覚えていないのもありますし、嫌なことも絶対に意味があったことにしようと決めているので、そういう内容になったのかなと思います。15歳ぐらいまではひねくれていて、人の嫌なところばかりを見ていたんですけど、それって自分が損するだけと気づいて、訓練してやめたんです。今も自分改革をしている途中ですけど、どんなに大変でも何か意味があるんだと常に思うようにしたら、すごく生きやすくなりました。世の中で起きるどうしようもないこと、自分の力でどうにもならないことに対して、いちいち落ち込んでもあまり意味がないと思ったんです。コロナ禍なんて、まさにそうですよね。

――SNSとの向き合い方も変化があったそうですね。

宇賀 そうですね。結構傷付いていた時期もあるんですけど、ある時、これを書いた人も全く違う環境で直接会って話す機会があれば、分かり合えるかもしれないと思えたんですよね。昔からお茶の間では、テレビの前で「こいつ嫌い」「かわいくない」「おもしろくない」など、好き勝手に言ってた人はたくさんいたはずじゃないですか。その意見が本人に届くツールができただけだと思ったら、受け止められるようになりました。