アイドルからのアンケート集計は想像以上に難航

──雑誌『エトセトラVol.8』は、アイドルの労働問題、心身のケアなどのテーマを特集しています。和田さんも特集編集として深く携わっていますが、これはどのような経緯で決まったんですか?

和田 経緯については諸説あるのですが(笑)。『エトセトラ』は毎回いろんな特集を組んでいまして。エトセトラブックスさんと鈴木みのりさんの間で「アイドルとフェミニズム」という観点から特集を組むお話が出たらしいんです。その後、「特集編集をやってくれませんか」と私に声がかかったんですね。。

──特集の中では、アンケート記事が大きな柱となっています。「現役アイドルとOG」「関係者」「ファン」と、それぞれの立場からリアルな証言が寄せられていますが、これも和田さんのアイディアですか?

和田 そうですね。質問項目も熟考して、エトセトラブックスのみなさんと鈴木みのりさんと一緒に決めていきました。正直なところ、こうやってアイドルにまつわる問題について口にしているアイドルって、私を含めて本当に数名だと思うんですよ。でもたとえばひとつのアイドルグループがあったら、メンバーはそれぞれ違う意見を持っているはずじゃないですか。その人の立場とか性格によって、物事の見え方も全然違ってくるはずですし。実際、現場のメンバーがどんなことを感じながら活動しているのか、そのあたりが見えてくるといいなと考えたんです。

──集まったアンケート結果を見て、どのように感じました?

和田 まず現役アイドルのアンケートを集めること自体が想像以上に難しかったですね。当初の予定ではもっと数を集めるつもりだったので、そういう意味でいうと残念な面もあります。

──これは各プロダクションの担当者を通じて頼んだんですか?

和田 いや、とんでもない。全部、SNS上でのやりとりです。鈴木みのりさんや私のSNSを通して基本的にはアンケートの回答を募集しました。

──とはいえ彼女たちも事務所と契約しているタレントだから、「まずマネージャーさんに聞かないと」という話になりますよね。

和田 うーん……個人的には、アンケートの回答は個人でできるものだと思っています。ただ、ペンネーム可としても、フルネームでの投稿を希望する方もいるので、掲載時にどこまでペンネームを公開するかなどの工夫は必要でした。ちなみに思ったように回答数は集まらず、こうした問題に関心を持ってくれるのって本当に少数なんだと感じました。

──関心がないというより、リスキーに感じる方はいたかもしれません。

和田 そうか、それもあるか。アンケートは「掲載可能なお名前(ペンネーム可)」という項目をはじめにおいたり、注意書きに「全てペンネームで参加できます」という一文などを加え、個人情報を守りながら参加できるものだと伝わるといいなとも思っていました。

──アンケートで意外だったのは、アイドルと運営で同じような結果になっていた点です。「アイドルの恋愛は認められるか?」「水着や肌見せに年齢制限を設けるべきか?」といった踏み込んだ質問でも齟齬がなかったですし。

和田 そこは私も驚きました。想像していた以上に、会社の方がアイドルの労働環境に真剣に向き合っていることが伝わってきましたね。「アイドルに対してキツい要求があったりもするのかな?」などと考えてもいたんですけど、まったくそういうこともなくて。ごくまっとうなことをメンバーに求めているんですよ。もちろんこういったアンケートに答えてくれているくらいだから、問題意識をすでに持っている方が多いとは思うんですけど、未来に対して希望を感じたところでした。

──ところで和田さんは、ご自身の労働環境についてはどのように考えているんですか?

和田 そこは結構大きな課題(笑)。これを機に見直したいなとは思っています。私の場合、どこまでが趣味で、どこまでが仕事か曖昧な部分があるんですよ。たとえば美術館に行くとします。それで仕事用の記事を書かなくてはいけないこともあるし、単に自分が好きで行くだけの場合もある。インスタでアップした「アイドルの世界のあらゆる暴力に反対します」という文章も、実はあれ、書くのに3日くらいかかっているんです。その間、自分が本来やらなくちゃいけないことは中断していたんですけど……。自分で勝手に「やらなくちゃ!」と思って一生懸命動いていることだから、これは愚痴ではないんですけどね。仕事の定義が曖昧というか。

──SHOWROOM配信などでプライベートを切り売りしているアイドルも同じ感覚では?

和田 そうかもしれない。時給いくらとか、わかりやすいかたちで計算できないですもんね。最近だと歌詞を書くことも多いんですけど、じゃあたとえばジャケット制作まで自分でやるとなると、どこまで権利があるのあるのか、よくわかっていない。全部お任せにしちゃっているので、一度、整理したほうがいいなと思っています。