松尾スズキさんに魅了され、芝居の世界に

――キャリアについてお聞きします。この世界に興味を持ったきっかけを教えてください。

内田 高校3年生の春に、テレビで松尾スズキさんの存在を知ったことです。「キレイ 神様と待ち合わせした女 」という松尾さん作・演出のと奥菜恵さんが出演する舞台の映像や、大竹しのぶさんと深津絵里さん、阿部サダヲさんと宮藤官九郎さんと松尾スズキさんが出演していたバラエティドラマ「恋は余計なお世話 深津ちゃん何言ってるのしのぶ全然わからないスペシャル」を観て、松尾スズキさんに魅了されるようになりました。NHKの「トップランナー」で、好きな言葉を聞かれた松尾さんが「平等です。だってあり得ないから」と答えているのを聞いて「平等があり得ないのは分かっているけど、だからこそ、皆で考えていかなくちゃいけないってことなんじゃないか」と投げかけているように聞こえたんです。好きな言葉に、その言葉を選ぶひねくれた感じも面白くて。「この人のいる世界に行こう」と思うようになりました。

――大学は、日大芸術学部の文芸学科に進学されました。

内田 親は演劇に猛反対で、「とにかく大学だけは行け」と言われ進学しましたが、経済的な理由で4年間通うのが難しいことはわかっていました。それなら早く実践に行ったほうがいいと思い、入学した年の前期で中退しました。その後は、オーディションを受け、初舞台は「ラフカット2002」に決まりました。1995年以来毎年行われているプロデュース公演で、全4話のオムニバス形式をオールキャストオーディションで行うのですが、2002年は、松尾スズキさん、ナイロン100℃のケラリーノ・サンドロヴィッチさん、劇団新感線の中島かずきさん、ラッパ屋の鈴木聡さんが脚本を担当され、私は、ケラリーノ・サンドロヴィッチさんの作品に出ることになったんです。

――最初から話題性のある作品に出演されましたね。

内田 ある意味そうですね。オーディションで明瞭に喋れた気がしたので、それで合格したのかと思いきや、後から「何を言ってるか分からないくらい舌足らずだったけど、すごくぶっ飛んだ役だからちょうどいいだろう」という理由で選ばれたことが分かりました(笑)。

――ご自身の感覚とはまったく違ったのですね(笑)。続けていくうちに、お芝居が合っていると感じるようになりましたか?

内田 最初のうちは酷い話ですけど、セリフは会話だということを理解しておらず。自分の見せ場だと思い、一発ギャグみたいな感覚で、なんの脈略もなく、居もしない蚊を叩きながらセリフを言ったりしていました。最初の頃はそれでよかったんですが、次第に通用しなくなり「自分は役者に向いていないんじゃないか」と思うようになりました。そこから「五反田団」の前田司郎さん、「ハイバイ」の岩井秀人さんと、「ポツドール」の三浦大輔さんといった、「青年団」の平田オリザさんの流れをひく現代口語演劇を率いる方々に出会い、会話をセリフをじっくり学びました。「イキウメ」の前川知大さんとの出逢いも大きかったです。その経験を経て「合っているかもしれない」と思えるようになったんです。

――当時、フリーランスという立場を選ばれたのは、いろんな劇団で活動するためですか?

内田 そうですね。こんなにたくさん面白い劇団があるのに、一つに絞るのはもったいないと思いましたし、「この人は次何をするんだろう」と思われるような人にもなりたかった。観て面白いと感じた劇団の次回公演のオーディションは片っ端から受けました。自分を一つのジャンルに定着させたくなくて、現代口語演劇もしつつ、同時に歌ったり踊ったりする演劇もやっていました。

――個性がバラバラの劇団で活動されていたのですね。

内田 始めの頃は、小劇場の面白そうな世界に身を置きたいという気持ちが強かったんです。本格的に演技がしたいと思うようになったのは、27、28歳を過ぎた頃からです。その頃になると自分のキャパを超える役を振られるようになったり、得意じゃない役を演じることが増えてきたりして、対応しきれないことも多く「何が楽しくて芝居をしているのか」と考えるようになり、ちょっと苦しかったですね。

――スランプをぬけるきっかけはありましたか?

内田 木野花さんの演出を受けた時に、「台本に書いてあるイメージや感覚を全て具体的にしなさい」と言われて、そのとおりにしたらどう演じればいいか明確になりました。役を追体験するような感覚が得られるようになり、そこから「演じるってこういうことなんだ」と理解できるようになりました。

――そこから演技に疑問を感じることはなくなりましたか?

内田 小さな疑問を持つことは日々ありますが、「なぜやっているんだろう」と思うことはなくなりました。

――舞台と映像は今後も両方やっていきますか?

内田 そうですね。ただ、舞台は自分の現在地に立ち返るために特別な表現分野です。その上で、舞台、映像、どちらに偏ることなくやっていきたいと思っています。

Information

ロームシアター京都 レパートリー作品 木ノ下歌舞伎『糸井版 摂州合邦辻』
2023年5月26日(金)〜6月4日(日)

KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
キャスト:内田慈 土屋神葉 谷山知宏 永島敬三 永井茉梨奈 飛田大輔 石田迪子 山森大輔 伊東沙保 西田夏奈子 武谷公雄
作:菅専助、若竹笛躬
監修・補綴・上演台本:木ノ下裕一
上演台本・演出・音楽:糸井幸之介(FUKAIPRODUCE 羽衣)
音楽監修:manzo
振付:北尾亘
提携:KAAT神奈川芸術劇場
企画制作:ロームシアター京都、木ノ下歌舞伎/一般社団法人樹来舎
製作:ロームシアター京都
共同製作:穂の国とよはし芸術劇場PLAT、KAAT神奈川芸術劇場

<ツアー情報>
岩手・北上公演  6月10日(土) 
北上市文化交流センター さくらホール 中ホール
愛知・豊橋公演  6月14日(水) 
穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
福岡・北九州公演 6月25日(日) 
J:COM北九州芸術劇場 中劇場
滋賀・大津公演  7月1日(土)  
滋賀県立芸術劇場 びわ湖ホール 中ホール

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『あの子の夢を水に流して』
2023年5月20日公開

キャスト:内田慈 玉置玲央 山崎皓司 加藤笑平 中原丈雄 
監督・脚本:遠山昇司
プロデューサー:小山真一、武田知也
撮影監督:森賢一
照明:高木英貴
録音:尾方航
ヘアメイク:池上ゆき
スタイリスト:キクチハナカ、まなべかずこ
音楽:志娥慶香
編集:加藤信介
主題歌:玉井夕海
制作:小森あや
VFX:おかもとみき
撮影助手:野中拓也
照明助手:寺岡将吾
美術協力:北澤岳雄、加賀谷静
タイトルデザイン:吉本清隆
Webサイト制作:泉田茜
絵画:民佐穂
短歌:池田翼
配給:ベンチ

生後間もない息子を亡くした瑞波(37)は、失意のなか、10年ぶりに故郷である熊本・八代に帰省する。瑞波は幼なじみの恵介と良太に久しぶりに再会し、3人で豪雨災害による傷跡が残る球磨川を巡り始める。川を前にして語られる、それぞれが「あのとき」見たもの。3人はそこで、不思議な現象を目の当たりにする。

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『静かなるドン』
前編・後編 各1週間連続上映!
キャスト:伊藤健太郎 筧美和子 深水元基 本宮泰風 三宅弘城 坪倉由幸 内田慈 朝井大智 小西貴大 藤井陽人 今野杏南 宮崎吐夢 金橋良樹 飛永翼 香川幸允  御子柴彩里 鈴木裕樹 兒玉宣勝 斉藤天鼓 舘昌美 中村公隆 本田広登 川﨑健太 喜矢武豊 筒井真理子 寺島進 

監督/脚本:山口健人
総合プロデュース:本宮泰風
原作:『静かなるドン』新田たつお(実業之日本社 刊)
脚本:吉﨑崇二(QueenB)
音楽:岩本裕司 前田恵実
製作:英田理志 人見剛史 
エグゼクティブプロデューサー:前田利洋 鈴木祐介  
プロデューサー:河野博明 丸田順悟 
制作プロデューサー:菅谷英一 
撮影:石塚将巳 
照明:八藤優美 
録音:岡本立洋 
編集:金田昌吉  
スタイリスト: 網野正和 
衣裳/持ち道具:森内陽子 
ヘアメイク:坂口佳那恵 
アクション監督:玉寄兼一郎 
ガンエフェクト:浅生マサヒロ 
スチール:西永智成 
整音:大辻愛里 
音響効果:小林孝輔 
助監督:伊藤良一 
製作担当:長田克彦 
キャスティング:渡辺有美
制作プロダクション:MinyMixCreati部 ・ダブルフィールド 
配給:ティ・ジョイ 
©2023「静かなるドン」製作委員会

暴力団・新鮮組の新総長になったのは、カタギのサラリーマンの近藤静也(伊藤健太郎)。しぶしぶ総長になった静也は、ヤクザの抗争のない平和な世の中を実現すべく、デザイン会社でのサラリーマンと総長の二足のわらじを履きながら悪戦苦闘していく。そんな中、ついに対立する鬼 州組との全面対決が勃発した!あくまで平和的に事を進めたい静也に反発する血気盛んな組員たち、次々と抗争を起こす鬼州組、そして好意を 寄せる同僚の秋野明美(筧美和子)との関係…。自分の信念とヤクザ社会の掟との間で揺れ動く静也の運命は― 。

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内田慈

1983年生まれ。神奈川県横浜市出身。日本大学芸術学部文芸学科中退後、新進気鋭の作家・演出家の作品にいち早く出演しキャリアを積む。 近年の主な出演作に、【映画】『レディ・トゥ・レディ』 (W 主演)、『ホテルローヤル』『護られなかった者たちへ』、『決戦は日曜日』【舞台】『散歩する侵略者』『糸井版 摂州合邦辻』、『海王星』、『紙屋町さくらホテル』【TV ドラマ】『silent』(CX)『しょうもない僕らの恋愛論』(ytv) 『夫婦が壊れるとき』(NTV)【声】みいつけた!(NHK)など。

PHOTOGRAPHER:TOMO TAMURA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI