宮古島はどこを撮っても絵になるから、ロケーション選びに苦戦した
――上西さんの監督作は、常にバイオレンス要素が入っています。
上西 人間の中にある凶暴性が人を脅かしたり、苦しめたりすることは、絶対的にあると思っているので、必要な要素としてどの作品にも暴力性を描いています。でも、僕が描きたいのは人間の心の優しさや良心なんです。それを際立たせるためには、その対極にあるものを置くようにしています。観た後にどんよりした気持ちで席を立つのではなく、温かい気持ちになって劇場を後にしてもらいたいからです。
――家族的なテーマも常に描かれていますね。
上西 そうですね。僕は父親との関係がちょっといびつだったので、家族を求める心が強いし、脚本を書き終えて見返すたびに、その思いを作品に投影していると感じています。
――『ヌーのコインロッカーは使用禁止』を演出していた際、特に印象的なシーンを教えてください。
上西 一番印象に残っているのは、古川が鞄を転がしながら坂道を歩いていたら、偶然、蝶々が飛んできて、それを追いかけるシーン。あそこは自分で撮っていて泣いちゃいました。チラシでは、イラストでヌーに羽を描き加えていただいたのですが、まさに天使の表情で。舞台では表現し得ない、映像ならではのシーンでした。映像は演者にカメラが近づくので、演じている人間の奥にあるものが表現できるんです。古川は『ひとくず』で、子どもをどう育てていいか分からない負の連鎖を背負った女性を演じ、ここでは発達障害でありながら天使のように美しい心を持って、人と接しているヌーを演じ分けています。すごい俳優なので、もっと脚光を浴びて欲しいなと思います。
――現在上映中の『宮古島物語ふたたヴィラ』はどういうきっかけで作られたのでしょうか?
上西 『ひとくず』が公開に至るまで苦労しまして、そんな時にご協力いただいたのが柴⼭勝也さんという宮古島でリゾートヴィラを経営している会長さんです。その方のおかげで『ひとくず』を世に出すことができたので、僕は“『ひとくず』の父”とお呼びして尊敬しているのですが、その柴⼭さんから「宮古島の良さを映画で表現して欲しい。リゾートヴィラも使ってくれ」と言われまして、恩返しのために、会長をあえて主役にして、リゾートヴィラをメインに映画を作りました。僕らが宮古島に行くと、大阪や東京では会えないような人とたくさん出会うチャンスがあって、「何でここで会うんだろう」と不思議に思うことが何度かあったんです。島が人を会わせる力を持っているんじゃないかなと思い、『宮古島物語ふたたヴィラ』という作品が生まれました。撮影期間がコロナ禍というのもあり、愛する人との別れる悲しみと、もう一度出会う喜びをテーマに描きました。
――宮古島はロケーションとしていかがでしたか?
上西 どこを撮っても絵になるので、逆にロケーションを選択するセンスが問われて、きつかったですね。「宮古島」、「リゾートヴィラ」、「会長」という要素をそのまま正直に撮るとただの観光映画になっちゃう。作品としてきちんと作りたかったので、ロケハン巡りをして。松原智恵⼦さんが銃を突きつけられる製糖工場は、稼働してない時期だったので、好きに使っていいと言われ、ああいう風に使わせていただきました。ロケーションは悩みに悩んで撮りましたね。
――上西さんはキャスティングもご自身でやられるそうですね。
上西 脚本を書きながら、この方にこの役をお渡ししたいという思いがあるので自分でやります。主演を演じた松原さんは僕にとって憧れの存在で、まさか出てもらえるとは思っていませんでした。つながりができたので、一生の思い出にという思いでお願いしたら、受けてくださったんです。衣装合わせにいらっしゃった時も「うわ、松原智恵子だ!」って気が動転して、夢の中にいるような感覚でした。息子役の僕が「母ちゃん!」って言って松原さんを抱きしめるシーンは、どうしても“美しくて憧れの女性の松原さん”と思いがよぎってしまって。でも、そういうのが見えちゃダメだから、自分と闘いながら演じていました(笑)。モニターも何度もチェックして、ちゃんと息子でいられたなと。そこはすごく気をつけた点です。