すべての作品は自分が演じることを前提に脚本を考えている
――上西さんは40歳を過ぎて俳優に転身されましたが、30代の時もお芝居への興味はありましたか?
上西 全くなかったです。お芝居の世界も、自分から入ったのではなく、いつの間にか巻き込まれてしまっただけで。当たり前ですが、演技なんかできないから恥をかくんですね。それが本当に悔しくて、なんとかちゃんとお芝居できるようになりたいと思い、劇団芝居小舎の芝本正先生に弟子入りしたんです。先生の元で、基礎の基礎から叩き込んでいただいて、お芝居の奥行きの深さを知り、僕が目指す方向が決まりました。
――年齢を重ねてからお芝居を始めて良かったと思うことはありますか?
上西 役者は人の心を表現しなくちゃいけないから、そういった意味では、これまでいろんな場面を切り抜けてきましたので、若い時よりも、自分の中で使えるアイテムは十分にあると思っています。
――お芝居を始めた時から映像の仕事をしたいという気持ちはありましたか?
上西 おばあちゃんがよく映画館に連れて行ってくれたので、自分の中に映画の記憶がたくさんありました。中でも松田優作さんやショーケン(萩原健一)さんは印象深くて。もちろん今のアクション映画も素晴らしいんですけど、僕の中にあるのは現実的じゃないように見えて現実を求めているような、やたらと男くさい映画なんです。そういう表現が好きなので、『西成ゴローの四億円』(2022年)は意識してその世界を作りだしました。
――いわゆる東映のヤクザ映画はいかがですか?
上西 ヤクザものが好きというわけではなく、山田洋次監督の作品のように、人間の温かさがある映画が好きなんです。アクションであっても、人間の温かさはあればこそのアクションだと僕は感じています。
――映像の勉強をしてきた訳ではないのに、『ひとくず』の演出は素晴らしかったです。
上西 芝本先生から学んだ人間を表現する演技の基礎から、視点を変えずに映像で表現したら、自分の中にあった映像の世界をそのまま作ることができました。
――新人監督でありながら、これだけのペースで長編映画を撮られる方はなかなかいらっしゃらないと思います。
上西 僕は流れに身を任せるタイプなので、『ひとくず』を撮った後に、観た方々から「映画を撮れ」と言っていただき、素直に取り組んできたら結果このペースになりました。
――脚本もご自身で書かれていますね。
上西 自分の中にあるものから、書きたいテーマが生まれてくるので、脚本もわりと短時間で書き終えることができます。
――海外の映画祭にも積極的に出品されています。
上西 友達の監督さんがミラノの映画祭に出すというので、僕の作品も一緒に出してくださいとお願いしたのがきっかけです。そこでグランプリをいただき、映画祭と縁ができたので、その後も作品を出すようになりました。映画祭について調査したことがないので、そういう意味では出しやすいところに出していますね。
――監督作でも上西さんは必ず役者として出演されています。
上西 僕は監督よりも、演じることで人間を表現したいという思いが強いので、どの作品も自分が演じることを前提に脚本も考えています。うちは「映像劇団テンアンツ」という劇団体制でやっていますので、自然にそういう形に収まります。でも、はたから見ていて、監督が「用意スタート!」と言って演技を終えて「カット!」と言っている姿はすごくおかしいだろうなと思います(笑)。つい先日20作目を撮り終えまして、ここまで来るともう慣れましたが。でも、予算に余裕があれば、もうちょっとゆったり撮りたいですね。次の現場のこと、食事のこと、衣装のこと、常に追い込まれながらやっているので、そういうことから解放されてみたい気持ちもありますが……、当分難しいかもしれないです。
――若い世代の読者に、『宮古島物語ふたたヴィラ』と『ヌーのコインロッカーは使用禁止』の見どころを教えてください。
上西 昭和の頃に僕らが受け取った映像のイメージで人間表現ですが、今の若い方々には新しい感覚で観てもらえると思うので、ぜひ映画館に足を運んでください。
Information
『ヌーのコインロッカーは使⽤禁⽌』
6月22日(木)まで 下北沢トリウッド(東京)
7月7日(金)〜 長野千石劇場(長野)
7月14日(金)〜 フォーラム仙台(宮城)
7月22日(土)~7月26日(水) 玉津東天紅(大分)
近日公開 別府ブルーバード劇場(大分)
キャスト:古川藍 上⻄雄⼤ 徳⽵未夏 ⼯藤俊作 城明男 ⾕しげる 剣持直明 空⽥浩志 速⽔今⽇⼦ 阿部⼤将 久藤今⽇⼦ ⽥中要次 菅⽥俊 ⽩川和⼦ ⽥村亮(特別出演)
脚本/監督/プロデューサー:上⻄雄⼤
エグゼクティブプロデューサー:中⽥徹 平野剛 ⾼橋鋭⼀ 中島義和
監修:楠部知⼦(三国ヶ丘病院)
企画/制作:10ANTS
撮影/照明:前⽥智広 川路哲也 ⽊根森基
編集:上⻄雄⼤ 川路哲也 Na Seung Chul
録⾳:廣⽊邦⼈
⾳楽/整⾳:Na Seung Chul 主題歌 『ヌー』
作詞/作曲/唄:⼭崎ハコ 挿⼊歌 『枯れた河』
作曲/唄:梁原三
作詞:上⻄雄⼤
題字:オガワヨウヘイ
絵画協⼒:⼭﨑宥
知的障害者の那須叶(なすかなえ)通称ぬー。彼⼥は⺟親を求めながら、⾚ん坊の頃捨てられたロッカー“ぬ5515”を守り続け、毎⽇コインロッカーの前で絵を描き続けていた。ある⽇、刑務所から出所した男・⿊迫和眞(くろさこかずま)と出会う。⿊迫は、別れた妻⼦に⾦を送る為、現在はヤクザである友⼈の⽊嶋から紹介してもらった覚醒剤売買で⾦を稼ぐ。ヌーのコインロッカーの傍で覚醒剤売買をしながら次第にヌーに興味を持ち、思いつきでSNSでヌーの絵をアップし始める。海外の有名アーティストから絵を買いたいとの連絡が⼊り、⾼額で売ろうとした⿊迫だったが、ヌーの純粋な⼼に触れ良⼼が⽣まれる。そんな時、ヌーが⽩⾎病により倒れ余命を宣告される。⿊迫はヌーに、適合した⾃分の⾻髄を移植するが、覚醒剤売買が発覚し、警察に連⾏される。病院を抜け出し冷たい⾬に打たれながら⿊迫を追って警察署の前で再び倒れたヌーは、無理が祟り亡くなってしまう。釈放された⿊迫はヌーの担当施設職員・瀬⼾瑠璃⼦によって、ヌーが⿊迫へ残した沢⼭の絵と想いを受け取る。
『宮古島物語ふたたヴィラ』
7月7日(金)〜 長野千石劇場(長野)
キャスト:柴⼭勝也 古川藍 徳⽵未夏 上⻄雄⼤ ⾚井英和 津⽥寛治 ルビー・モレノ ⾼樹澪 丈 波岡⼀喜 松原智恵⼦
スタッフ:
脚本/監督:上⻄雄⼤
プロデューサー:上⻄雄⼤
エグゼクティブプロデューサー:柴⼭勝也 上⼭勝也 草刈健太郎
撮影:吉沢和晃 吉⽥淳志 北⽥祥喜
企画/制作/配給:10ANTS ⓒ上⻄雄⼤ 2022 年/⽇本/カラー
協賛:株式会社リゾートライフ 串かつだるま カンサイ建装⼯業株式会社 株式会社⼤剛
協⼒:株式会社リゾートライフ クリスタルヴィラ宮古島砂⼭ビーチ しゃぶ庵 シティライフ宮古ラブニール 株式会社パック 雪塩ミュージアム みやこ下地島空港 宮古製糖株式会社 かんかん堂 クラブTONMI 壱場⾷堂 宮古テレビ
バブル経済の破綻と共に、そのあおりを受けた⼤阪にて不動産業を営む男 碧海貴吉は失意のまま⼤阪から宮古島にやって来る。⾃殺をしようとしたその時、亡くなった⽗・勘吉が現れ貴吉に叱咤する。ウミガメを⾒せた後「あの丘に⼩さなホテルを作れ。そしてその裏の砂浜にこのウミガメを放て…そうしたらそこは⼈を救う再開の場となり、お前の⼈⽣も救ってくれる」と⾔って消えていく勘吉。勘吉の⾔葉通り、ヴィラを建てる貴吉。やがてそこは泊まれば⼼から願う再会を叶えてくれる「ふたたヴィラ」と呼ばれる。時は流れ、宮古島へ降り⽴つ碧海陽葵。⺟と⾃分を捨てた⽗貴吉を恨むが、その⽗が亡くなり内縁の妻⽢潮優実に呼ばれ渋々来たのだった。貴吉の造り上げたヴィラに連れられ、そのヴィラに訪れる家族や島の住⼈達と触れ合う。漁師の⽗に反抗し島を出た息⼦ 南城津吉は、都会で上⼿く⾏かずヤクザに追われながら島に戻るが、殺したヤクザの家から引きこもりの娘を連れ歩く。久しぶりに会った⺟ 南城寿⼦は認知症により⾃分の息⼦が分からなくなっていた。新型コロナウイルスによって夫を亡くした村川叶は、娘村川愛那と共に再会を果たせるヴィラに願いを込めて訪れていた。⾏⽅不明になった娘を探す夫婦は、娘に似た⼈が宮古島に居るという情報を聞きつけ訪れる。其々の家族が「ふたたヴィラ」によって、ほつれた想いをほぐし新しい絆をゆく。陽葵は、⺟ジェニファーが娘が⾃分から離れることを恐れ⽗について嘘をついていたことを知らされる。⽢潮から⽗貴吉の想いを聞き、「ふたたヴィラ」継ぐことになる。天使となった貴吉は宮古島の美しい空と海で⾒守り続けてゆくーーー。
PHOTOGRAPHER:TOSHIMASA TAKEDA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI