誰かにとって良い影響となるものを1ミリでも持って帰ってもらいたい

――小林さんがミュージカルに興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか。

小林 小さい頃から、よく家族で一緒に映画を観ていて。その過程で『巴里のアメリカ人』など、昔ながらの古き良きミュージカル映画が大好きになり、ミュージカル映画を撮りたいなと思うにいたりました。

――ミュージカル映画に惹かれた理由は何でしょうか。

小林 どんな展開があっても最後は幸せな気持ちになれるというのが大きいですね。嫌な側面よりも良い側面を取り上げるという考え方が大好きでした。

――映画ではなく舞台に関心が移ったきっかけは何だったのでしょうか。

小林 高校から始めたオーケストラの活動を通して、お客様の気配がステージに立つ私たちを動かして、ステージの気配がお客様も動かすという交流を体感できて、ライブパフォーマンスはものすごく楽しいものなんだなと。そう思ったときに、編集できる映画から、一期一会の舞台のほうに興味が向いて、ミュージカルの世界に進もうと思いました。

――当時、日本のミュージカルはどういう状況だったんですか。

小林 あまりにも様変わりしていて、当時のことを思い出すと、私は年を取ったんだと思うんですが(笑)。20年ほど前はオリジナルミュージカルを作っているところは本当に少なくて。それで私はオリジナルミュージカルを作っている謝珠栄(しゃ・たまえ)先生のところに弟子入りしました。その後、私は東宝株式会社でプロデューサー契約を交わすんですが、当時は帝国劇場(※東宝が運営する劇場)の12ヶ月のラインナップは、半分が芝居だったんです。私が最初に付いた仕事も、浜木綿子さんの『からくりお楽』という芝居でした。忘れもしない、飛騨高山のお祭りを題材にした作品です。その帝国劇場が、徐々にミュージカル作品が多くなって、今はラインナップのほとんどがミュージカルになりましたから、それ一つとってもミュージカルを取り巻く状況は大きく変わったなと思います。

――弟子入りしたときは、どんなお仕事をされていたんですか。

小林 先生のために資料を用意したり、先生が考えるときにヒントになるようなものを集めたり、台本を書くときの手伝いだったり、演出助手みたいなことをやったり。ありとあらゆることをやっていました。

――東宝のプロデューサーになったのはご自身の意思だったんですか?

小林 お声がけをいただいて、決心しました。正直、演出家になりたいから東京に来たのにプロデューサーになったら、もう後に戻れないんじゃないかという葛藤はものすごくありました。ただ人に求めてもらえるということは、きっと私の中に何かを見出してくださった訳で、それを信じて断らずにやってみようと思ったんです。若いからこその大胆さというか、失敗してもやり直せるという気持ちもありました。実際、プロデューサーを辞めて演出家になるとき、「プロデューサーに演出ができるのか」という声もあったんですけど、プロデューサー時代のいろんな経験があるからこそ、今も自分が演出家としてやれているなと思うところも多々あります。

――今でこそミュージカルを上演する劇場も増えましたが、どうして今の状況になったと分析しますか。

小林 一つは歌って踊れる人が増えたのが大きいと思います。例えば川平慈英さんのような先輩俳優たちが耕してきたものを、次の世代が少しずつ広げていくことによって成り立っているので、突然何かでミュージカルがブレイクした訳ではないんです。ミュージカルを生で観て、「私も歌って踊ってみたい」と思う子たちが増えていって。それによって幼き頃から訓練をして、歌って踊れる子が次々と現れて、どんどんミュージカルの幅も広がっていって、パフォーマンス力が高いから観てくださる方も増えて。それが脈々と続いているので、みんなが耕してきた土壌なのかなと思います。

――どんなときに仕事のやりがいを感じますか。

小林 40歳になったときに、もう半分生きてしまったなと思ったんです。あと何年仕事ができて、何作作れるのかと、だんだん引き算の考え方になっていきました。だからこそ1作1作が大切だと思いますし、こうして仕事をさせていただいている以上、世の中の役に立ちたいなと思います。ミュージカルを通して心が寛容になったり、新しい側面に気づいたり、自分に自信を持ったりと、誰かにとって良い影響となるものを1ミリでも持って帰ってもらえる作品を作りたい。もしそれができたら、やりがいを感じると思います。

Information

せたがやこどもプロジェクト2023《ステージ編》
株式会社アミューズ×世田谷パブリックシアター

ミュージカル『カラフル』

【原作】森絵都「カラフル」(文春文庫刊)
【脚本・作詞・演出】小林香
【作曲・編曲】大嵜慶子
【出演】鈴木福 加藤梨里香 百名ヒロキ 石橋陽彩 菊池和澄
島田彩 高井泉名 本田大河 鈴木大菜
彩乃かなみ 川久保拓司 / 川平慈英
【スウィング】畑中竜也 仲本詩菜

公演日程:2023/07/22(土)~ 2023/08/06(日)
会場:世田谷パブリックシアター
料金:一般S席 9,500円 A席 7,500円
高校生以下 1,000円(S・A席ともに、当日要証明書提示)
親子ペア S席 9,500円(一般1枚+高校生以下1枚、前売りのみ取扱い、当日要証明書提示)
お問合せ:世田谷パブリックシアターチケットセンター(03-5432-1515)営業時間:10:00~19:00(年末年始を除く)

「おめでとうございます!抽選にあたりました!」。死んだはずの<ぼく>(鈴木福)の魂は、ガイド役の天使・プラプラ(川平慈英)に導かれ、自殺を図った小林真として人生の再挑戦をすることに。家族やクラスメイトとの関わりの中で、モノクロだった世界のイメージが少しずつカラフルな色に変わりはじめたとき、<ぼく>の生前の罪が明らかになる……。

公式サイト

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小林香

京都芸術大学 舞台芸術学科 客員教授。“各分野での先駆的活躍で特に功績の著しい女性”に与えられる「京都府あけぼの賞」を受賞。東宝株式会社にて帝国劇場/シアタークリエの演劇プロデューサーとして活動後、舞台演出家として独立。数々の海外ミュージカルの演出を手がけ、演出・脚本・作詞を一手に任う「オリジナルミュージカル」の創作も得意とする。近年の演出作品に、ミュージカル『MEAN GIRLS』(演出・上演台本・訳詞)、『リトルプリンス』(演出)、『マドモアゼル・モーツァルト』(演出)、『The Last 5 Years』(演出)、『The Parlor』(作・演出)、『モダン・ミリー』(訳・演出)、『SHOW-ism』シリーズ(脚本・演出・作詞)などがある。

PHOTOGRAPHER:YUTA KONO,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI,HAIR&MAKE:YOHJI FIJIWARA,STYLIST:KENTARO OKAMOTO