一度芸能界を辞めたことで、新しい世界を見ることができた
――キャリアについてお伺いします。吉川さんは3歳で芸能界入りして、数多くのドラマや映画に出演します。子役の頃は、どういう意識でお仕事をしていましたか。
吉川 自分の意志で始めた訳ではなかったので、お芝居の楽しさも分からなかったですし、日常生活の一部みたいな感覚でいました。学校に行くのと同じで、お仕事をしている感覚もなかったです。
――子役をやっていて良かったことはありますか。
吉川 子どもならではの演技を体験できたことと、早くから、いろんな経験を得られたのは今にも活きています。ずっと大人の方たちの中にいたので、社会性もつきましたし、本当に良かったなと思います。
――2016年4月に芸能界を引退しますが、どういう理由があったんですか。
吉川 普通の高校生活を送りたかったんです。バイトもしたかったので、半年ぐらいパン屋で働いていました。結局、芸能活動から離れた期間は約1年だったのですが、今振り返ると、一度辞めて良かったと思います。新しい世界を見ることができましたし、芸能では経験できないこともできましたから。
――パン屋さんの役がきたら、リアルに演じられますしね。
吉川 なかなかない役柄ですけど、パン屋さんの役が来たら完璧に演じる自信があります(笑)。
――芸能活動を再開しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
吉川 自然とテレビって目に入ってくるじゃないですか。そうすると、今まで当たり前にあった演技のお仕事がなくなって、私はもう外からでしかお芝居を見ることができないんだと思ったら辛くなったんです。あと私の作品を観ていた方から、「もうお芝居はやらないんですか?再開したら絶対に観るので待ってます」と言っていただくこともあって。私でも誰かを喜ばせることができていたんだと思うと、すごくうれしくなって。徐々に戻りたいという欲が出てきました。
――辞めるときは、自分の中で復帰する気持ちは全くなかったんですか。
吉川 ゼロでした。でも、またお芝居の仕事がしたいという気持ちが高まっていたときに、たまたま今の事務所にスカウトしていただいたんです。声をかけていただいたのもうれしくて、再開することにしました。
――復帰することに不安はありましたか。
吉川 子どもの頃と違って、自分の意志で始めましたし、演技することも久しぶりなので、最初は不安でした。ただ辞める前よりもお仕事に前向きになれていたので、辞めた期間があって良かったなと思います。
――ブランクは感じましたか?
吉川 とても感じました。そういえばマイクを付けるんだとか、基本的なことも忘れちゃっていて。それに過去のキャリアがあったから、「期待してるよ」って言われることもあって。プレッシャーもありました。
――すぐに感覚は戻りましたか。
吉川 すぐには戻ることができず、徐々にでした。だから復帰作なんて見ていられないです(笑)。ただ自分でも不思議に思うのですが、辞めていたときと、復帰後の自分を比べると、表情が違っていてキラキラしているんですよね。意識していた訳じゃないのですが、自然と変化していたんです。
――復帰後、ターニングポイントになった作品は何でしょうか。
吉川 映画『ハニーレモンソーダ』(21)です。私が演じたヒロインの石森羽花は、自分と性格が真逆過ぎて、どう演じていいのか不安が大きかったんです。どう自分に落とし込むのか悩みながら演じたのですが、この作品で第45回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞させていただいて、頑張って良かったなと心から思いました。