初めての演技レッスンが上手くいかなくて悔しくて泣きじゃくった

――お芝居を始めたきっかけは?

辻 上京した直後に編集長が、いい刺激になるんじゃないかと別の事務所の演技レッスンに連れて行ってくださって。レッスン中に何もない状態で、「目の前にペットボトルがあるから、開けて飲んでみて」と言われたんですが、上手くできなくて、あまりにも悔しくて泣きじゃくって帰ったんです。それで編集長に「悔しいから来週も行きます」と伝えて、それから演技レッスンに通うようになりました。

――モデルというお仕事の将来性はどのように考えていましたか。

辻 私はハイブランドのファッションショーに出るような高身長モデルでもないし、モデルとしての寿命は短いと薄々気づいていました。だからこそ、難しい世界なのは分かっていましたけど、お芝居のほうに気持ちが傾いていったんだと思います。

――俳優としてターニングポイントになった作品は何でしょうか。

辻 今の事務所に入る前に、CMでご一緒した監督から、「ショートフィルムを作るから出てほしい」と声をかけていただきました。それが『桃の缶詰』(2019)という作品で、主演を務めさせていただいたんですが、初めて本格的にお芝居をして、役について自分で考えて自由に演じるのが楽しかったんですよね。そのときに、ぼんやりと次もやりたいなと思ったんです。あと『桃の缶詰』が「ショートショートフィルムフェスティバル」というフェスティバルで上映されたときに、観客の方々と一緒に自分の出演している映画を観るのが不思議な感覚で、それが忘れられなくて。

――俳優としてやりがいを感じるのは、どんなときですか。

辻 『男の優しさは全部下心なんですって』(2021)という作品で初めて長編映画の主演をやらせていただいたんですが、本当に辛かった現場で。私は今の事務所に入った直後で経験も少ない中、他のキャストはキャリアのある方ばかりで本当にいろいろと助けていただいたんです。それでクランクアップ後に、こんなに映画って心が削られちゃうんだと気づいて放心状態になってしまって……。ただ映画館で完成した作品を観たときに、全てが報われた感覚があったんです。監督ののむらなおさんともやっと打ち解けられたというか。途中で諦めないで良かったと思いましたし、そうやって、みんなで一つの作品を作ったと実感できたときにやりがいを感じます。

――最後に改めて『シンデレラガール』の見どころをお聞かせください。

辻 主人公に障がいがあると、「頑張れ!」という視線で観てしまいがちですけど、音羽の姿を見ると圧倒されると思うんです。そういう作品ってなかなかないですし、すごく前向きになれるので、気軽な気持ちで観ていただきたいです。

Information

『シンデレラガール』
新宿K’s cinemaほか全国順次公開中!

伊礼姫奈
辻千恵 泉マリン 太田将熙 輝有子 佐月絵美 三原羽衣 田口音羽
筒井真理子

監督:緒方貴臣
脚本:脇坂豊、緒方貴臣
撮影監督:根岸憲一
音楽:田中マコト、菱野洋平(WALL)
義足監修:臼井二美男
プロデューサー:榎本桜、緒方貴臣、塩月隆史、 杉山晴香、夏原健、森山風歩
製作:paranoidkitchen、リアルメーカーズ、ラフター
配給:ミカタ・エンタテインメント
2023年/日本/ カラー/16:9/5.1ch/61分
©2023映画『シンデレラガール』製作委員会

12歳の時に病気で⽚脚を切断した音羽(伊礼姫奈)。その後も⼊退院を繰り返し、中学校の卒業式にも参加できなかった。そんな⾳⽻のために、クラスメイトたちがサプライズの卒業式を病院の屋上でして、その動画がSNSで話題になり、音羽にモデルのオファーが舞い込む。義⾜の⼥⼦⾼校⽣モデルという特異性もあり、一時的に注⽬されるも、その後のモデルとしての仕事は義⾜を隠したものばかりだった。⼀⽅、マネージャー・唯(辻千恵)は、⾳⽻と一緒に義足のファッションブランドで「義足を障がいの象徴でなく、個性として捉えてほしい」という理念を聞き、⼼を動かされる。義⾜をもっと押し出していこうと決める二人。やがてファッションショーに出演できるチャンスがやってくるが……。

公式サイト

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辻千恵

1993年10月9日生まれ。佐賀県出身。2014年、モデルデビュー。2018年にショートフィルム『桃の缶詰』で主演を務める。以降の作品に、映画『たまつきの夢』(19)、『はちみつレモネード』(20)、『この小さな手』(23)、『サイドバイサイド』(23)など。月9ドラマ「女神の教室」に篠田優菜役で出演。

PHOTOGRAPHER:TOMO TAMURA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI