自分の課題を一つひとつ見つけていく目標提示が苦手だった

――先ほど大学のお話が出ましたが、早くから俳優活動を行っていた山口さんが、どうして大学進学をしたのでしょうか。

山口 正直、最初は選択肢になかったんです。でも両親には「自分たちの時代は大学に行きたくても行けない人が多かったから、行ける選択肢があるなら、考えてみて」とずっと言われていて。大学に進学するなら、自分の好きなことで、仕事の幅も広がるところがいいなと考えて選んだのが日本大学芸術学部映画学科でした。

――芸能界でも錚々たる方が卒業されている大学ですが、誰かに相談などはされましたか?

山口 大学に行く行かないの相談をすることはありましたが、「日芸」というワードを一切出してなくて。というのも落ちたときに恥ずかしいと思って、誰にも言わずに黙々と準備を進めていました(笑)。

――大学入学当時はコロナ禍前ですよね。

山口 コロナ禍前で、1年生のときは普通に通って、2年生からオンライン授業になりました。

――大学に通って、特に良かったことは何ですか。

山口 人に恵まれたことです。同じような趣味の子が圧倒的に増えたので、「こんなに話の合う人がいるんだ!」という喜びが大きかったです。音楽、演劇、デザイン、写真など、いろんな学科があるので、自分の専攻以外の友達もできました。今でも写真を撮ってもらう子がいますし、同じ映像業界にいる子もいるし、別業界に行った子も今でも仲が良いし。私の周りには人として尊敬できる人がたくさんいたので、4年間、学ぶことも多かったです。

――入学当時から将来の方向性が決まっている方が多いでしょうしね。

山口 そうなんですよ。「学校の授業なんてどうでもいい」と思っている人がいなかったので、すごく楽しかったですね。

――大学で学んだことがお芝居に影響する部分はありましたか。

山口 演技を磨くというよりは、裏で支えている方々の大切さを直に感じることができました。卒業論文の代わりに、みんなで15分ぐらいの短編映画を作ったんですけど、監督、撮影、録音と全て同級生がやるんですよ。早くからこのお仕事を始めていたので、支えてくださるスタッフの方々の存在は知っていましたけど、正直何をしているかまでは分からなくて。卒業制作を通して、みなさんの大変さを間近で見ることができたので、それは仕事にも活きていますね。

――実際の撮影現場を知っているから、同級生からアドバイスを求められることも多かったんじゃないですか。

山口 いや、みんなのほうが長けていた気がします(笑)。逆にアドバイスをもらうほうが多かったですね。シナリオから一緒に制作できたので、シナリオができる過程も見せてもらえて、すごく勉強になりました。

――2年生からオンライン授業とのことでしたが、大変さはなかったですか。

山口 オンラインだからこそ仕事の合間に授業を受けることができました。オンラインじゃなかったら今も卒業できていなかったかもしれません(笑)。

――先ほどお話にあった、卒業前後の葛藤は何が原因だったのでしょうか。

山口 今まで学校と仕事の両立をしてきたので、仕事一本になる怖さもありましたし、同級生が就活して、新入社員になっていくのを間近で見て、自分はこの選択でいいのかという不安もありました。今後どうしていけばいいのかは去年たくさん考えました。

――そうした葛藤が晴れたきっかけはあったのでしょうか。

山口 ひたすら事務所のスタッフと話しました。そこは自分の中にとどめるのではなく、ちゃんと伝えるようにして。それまで自分の課題を一つひとつ見つけていく目標提示が苦手だったんです。それを自分で見つけて、事務所のスタッフと共有することによって、ある程度は行き先が見えてきたので、だいぶ楽になりましたし、今は目標に向かってコツコツと進んでいます。

Information

『ブルーイマジン』
新宿 K’s cinemaにて公開中。そのほかのエリアでも全国順次公開予定。

山口まゆ 川床明日香 北村優衣
新谷ゆづみ 松林うらら イアナ・ベルナルデス 日高七海 林裕太 松浦祐也 カトウシンスケ
品田誠 仲野佳奈 武内おと 飯島珠奈 宮永梨愛 渡辺紘文 ステファニー・アリアン 細田善彦

監督:松林麗/脚本:後藤美波
プロデューサー:松林うらら / 後藤美波 コプロデューサー:ライザ・ディニョ
音楽:渡辺雄司
撮影:石井勲 照明:大坂章夫 録音:石寺健一 美術監修:北地那奈 編集:菊池美香
配給:コバルトピクチャーズ 製作:「ブルーイマジン」製作委員会
2024 年/日本・フィリピン・シンガポール/カラー/シネスコ/Stereo/93 分
©Blue Imagine Film Partners

俳優志望の斉藤乃愛(山口まゆ)は、かつてある映画監督からの性暴力被害に遭っていたが、弁護士の兄・俊太(細田善彦)からの助言もあり、自分の過去のトラウマを誰にも打ち明けられずにいた。しかし、親友のミュージシャン志望・東佳代(川床明日香)から、佳代が音楽ユニットを組む西友梨奈(北村優衣)の性被害の相談を受けたことをきっかけに、乃愛は友梨奈とともに「ブルーイマジン」に移り住むことを決める。巣鴨三千代(松林うらら)が相談役を務める「ブルーイマジン」は、さまざまな性被害や DV、ハラスメントなどに悩む女性たちの駆け込み寺として機能するシェアハウスだった。フィリピンからやってきたジェシカ(イアナ・ベルナルデス)やアイリーン(ステファニー・アリアン)をはじめ、「ブルーイマジン」に集まる個性あふれる人々と助け合いながら、乃愛と友梨奈は自らの過去の心の傷を癒し、佳代は性被害者への寄り添い方を学ぼうとするのだった。ある日、乃愛は「ブルーイマジン」へ相談に来た俳優志望の真木凛(新谷ゆづみ)を通じて、かつて乃愛に性暴力を振るった映画監督・田川実(品田誠)が、何人もの俳優志望者たちにも同様の行為を行ってきた事実を知る。乃愛は、「ブルーイマジン」の人々と連帯し、力を合わせて声をあげる決意をする。新聞社への取材申し込み、ブログ記事での拡散……乃愛たちの声は、世間からも少しずつ注目されはじめる。しかし、旧態依然とした映画業界は簡単には変わらない。田川の新作映画も、何事もなく公開されようとしていた……業を煮やす乃愛。いっぽうそのころ、佳代と新曲作っていた友梨奈はある晩、自らの心の葛藤を込めたこんな自作の歌詞を、ひとり口ずさむのだった。彼女たちにかすかな希望の灯りがともる未来は、やってくるのだろうか――?

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山口まゆ

2000年11月20日生まれ。東京都出身。2014年「昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜」でドラマ初出演。2015年ドラマ「アイムホーム」で木村拓哉演じる主人公の義理の娘役に起用され、同年、ドラマ「コウノドリ」で中学2年生の妊婦役を演じて話題に。近作にドラマ「シジュウカラ」(22)、「未来への10カウント」(22)、「めんつゆひとり飯」(23)、映画『くちびるに歌を』(15)、『相棒 -劇場版 IV-』(17)、『樹海村』(21)、『軍艦少年』(21)など。

PHOTOGRAPHER:TOMO TAMURA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI,HAIR&MAKE:美樹(Three PEACE),STYLIST:竹岡千恵