ロケーションもキャラクターと同じく大事な要素

――全編に渡って荒涼とした風景が広がっていて、ストーリーに真実味を持たせていましたが、ロケーションも入念に探したのでしょうか。

小路 半年のオーディション期間は、ロケハンも並行して行っていたんですが、あまり日本的な風景を出したくなくて。そうすると、なかなか東京には良い場所がなくて、千葉、茨城、神奈川、福島など、地方を中心にロケハンしました。ロケーションもキャラクターと同じく大事な要素なので、どれだけお金をかけてもいいから、良い場所で撮ろうと。そうやって妥協をしなかったのが良かったと思います。

――なぜ日本的な風景を排したかったんですか。

小路 海外の映画が好きなのもありますし、ストーリーに合う場所を探していたので、民家とかは映したくなかったんです。銃も出てきますから、一種ファンタジーというか。非現実的なことを念頭に置いて探したことがハマりました。

――お二人の中で印象深いロケーションはどこでしょうか。

森田 映像を通してハッとしたのは後藤剛範さん演じる後藤の工場です。撮影現場では気づかなかったんですが、晴れの日で、辰巳と葵ちゃんが強い光で照らされていて。こういうジャンルの映画って夜の印象が強いですけど、昼間のシーンが多いのも印象的でした。

――実際に稼働している神奈川県相模原の整備工場を借りたそうですね。

小路 暴力シーンが多い映画だと断られることが多くて、最初に決まった工場も、後から断られたんですよ。

遠藤 そうなんですか?

小路 決まってから、工場の方に『ケンとカズ』のDVDを渡したら、後日電話がかかってきて、「すいません。貸すわけにはいきません」と(笑)。

遠藤・森田 (笑)。

小路 『辰巳』でも工場は人を殺す場所ですからね。

森田 それでどうしたんですか?

小路 別のところを探して、最終的に鈴木商店というところにご協力いただきました。ただ、暴力シーンの撮影に関しては問題なかったんですが、そこで再撮しすぎて、「もうお金はいいので、早く終わらせてください」と言われました(笑)。

――遠藤さんはいかがですか?

遠藤 どの場所も印象的なんですが、僕も想ちゃんと同じく、映像を観てハッとしたのは、蝋燭で照らされた辰巳と葵の隠れ家です。めちゃめちゃ寒い時期だったんですけど、⿃内宏⼆さんの照明が素晴らしくて、素敵なロケーションでした。

――辰巳を演じる上で、どんな役作りをしましたか。

遠藤 撮影に入る前に小路さんと、辰巳の人物像についてすり合わせる時間がたくさんありました。辰巳は弟の死を経て、世捨て人のようになって、そんな中で葵という少女と出会う。辰巳の元恋人だった姉を殺されて復讐に燃える葵が窮地に陥ったとき、辰巳は自身も不利な立場に追い込まれるのに、彼女を助ける。そのきっかけは何だったのかなど、具体的に話し合ったんです。

――遠藤さんの中で、どのように辰巳の人物像を捉えていたのでしょうか。

遠藤 弟が死んだ時点で生きる希望も見出せない、何を理由にして生きたらいいか分からない、辰巳の中身は死んでいるんです。でも葵と出会って、助けることができなかった弟と重ね合わせることで、次の瞬間を生きる感情が芽生えていく。そういう風に考えたんですが、それって今の社会にも通じると思うんですよね。生きる理由や目的がないまま、現代を生きるって非常につらいことになる気がして。実際そういう思いを抱いている人たちに観てもらったときに、刺さるキャラクターになればいいなと思って演じました。

――辰巳はイントネーションが独特ですよね。

遠藤 僕は地元が神奈川県厚木市なんですけど、小路さんとも相談して、辰巳には横浜っぽい節が合うなと思って、そういう言い回しを取り入れました。

――森田さんは、どんな役作りを意識しましたか。

森田 撮影に入る前に参考として『レオン』などをいただいていたので、少女と男の組み合わせ、関係性は想像しやすくて。辰巳を始め、みんなとのコンビネーションが大切だと思ったので、本番以外でも積極的に対話をしました。たくさんの大人たちと演技させていただくので、目の前の人に食らいつくのが葵というキャラクターを作る上でベースにあったんですが、周りの支えもあって、自由に演じるだけで葵が成立した実感があります。

――ほぼほぼ葵は泥や血で汚れていましたよね。

森田 ひどいものですよ(笑)。特に『辰巳』の情報解禁のときに出た写真が、葵が後藤に突き飛ばされて泥だらけになったシーンで。顔がタヌキみたいな状態だったんですけど、本編では使われていないシーンなんですよ(笑)。

小路 葵が綺麗な顔で映っているシーンはほぼないかもしれないですね。

遠藤 想ちゃんの衣装が誰よりも汚れていたよね。

森田 でも全員、衣装が臭かった(笑)。

小路 申し訳ない……。

――繋がりがあるから衣装も洗えないですしね。

小路 そうなんです。一応何着か用意していたんですけど、血の付き具合もありますからね。

――その効果もあってか、役者さんの熱量や匂いが画面越しに伝わってきました。

森田 感じますよね。

遠藤 確かに匂いを感じる現場でしたね。