バイオレンスな作風と相反して、和気あいあいな現場だった

――バイオレンスシーンの匙加減はどう考えていましたか?

小路 幅広い層に観てもらいたいので、耳を落とすシーン以外は、わりと寸止めで見せているんです。「品がある」という感想を言ってくれる方もいて、僕もそう思いますが、見事にR15+になっちゃいました(笑)。

森田 血にしても肌や服には付着しているけど、飛び散る訳ではないので、それ以外の要素でR15+になったのかなと。たとえば葵が復讐する相手を刺すシーンとか……。

小路 リアルですからね。

――葵に刺されているときの相手の表情も迫真の演技でした。

遠藤 あの顔でR15+になったんじゃないかっていうぐらいで(笑)。

森田 小路さんが止めないから、どんどん刺さなきゃいけなくて(笑)。

――寸止めとは思えないほど、どの役者さんからも痛みが伝わってきました。

小路 嘘でやると、絶対に嘘っぽく見えるんです。みなさん演技がどうこうではなくて、この役をどう表現すればいいのか突き詰めて考えてくれて、本気でやってくれた結果です。

――男性陣はノーメイクですよね。

小路 そうですね。女性もノーメイクに近いです。

森田 葵も汚しメイクはしましたけど、普通のメイクは一切してなくて。当時は十代で肌も荒れているのに……。

――ノーメイクによってギラギラした迫力に溢れていましたし、アップも多用されていますよね。

小路 引きの画(え)も撮っているんですけど、みなさん表情が素晴らしかったので、編集のときに寄りが見たくなっちゃうんですよね。

――現場の雰囲気はいかがでしたか?

遠藤 作風とは相反して、めちゃめちゃ和気あいあいな現場でした。

森田 楽しかったぁ。

遠藤 待ち時間は倉本さんが楽しそうにMCをやっていましたよね。

小路 ずっと喋って、会話を回してくれるんですよね。

遠藤 想ちゃんも、ずっと喋っているタイプだよね。

森田 そうなんです。おじさん方は話を聞いてくださるので、よく恋バナをしてました(笑)。

小路 これだけ良い顔の人たちが恋バナをするんですよ。良いアドバイスはしてくれた?

森田 倉本さんと(松本)亮さんは前のめりでしたよ。

遠藤 前のめりなんだ(笑)。

――和気あいあいとした現場で、よく本番は気持ちを切り替えられましたね。

遠藤 ギャップがすごかったです。

――小路監督の演出はいかがでしたか。

遠藤 小路さんの中でイメージしているもの、欲しいものが明確で、役者に対してセンシティブに伝えてくれます。あと役者の言うことを絶対に否定しないので、巷で問題になっているパワハラみたいなところとは程遠いところにいらっしゃって、今の時代にフィットしています。

小路 そうですか?よく否定するって言われますけど。

遠藤 マジですか?そんなイメージはないけどなぁ。

小路 「自分のほうに持って行こうとする」と。

遠藤 監督ですから最終的にはそうでしょうけど、役者の提示したものを聞いてくれますし、はなから「全然違う」ではなく、「めちゃくちゃいいですね。でも、ここはこうしてみたらどうですか?」みたいなアプローチなんです。

――最後に、それぞれ読者にメッセージをお願いします。

遠藤 小路監督によって、過去に見たことのないジャパニーズ・ノワールの金字塔が誕生したと思います。手前味噌ですけど、自信を持って皆さんに楽しんでもらえる映画になったと思いますので、ぜひ劇場で楽しんでいただいて、面白いなと思った方はSNSで、どんどん『辰巳』の感想を書いていただけるとうれしいです。

森田 最初に「素晴らしい面構え」と仰ってくださいましたが、キャストのみなさん全員の気迫が凄まじくて、良い意味でイカれていて、ここまでレベルが高くて、しかも自主映画って凄いですよね。とにかく映画を観ていただかないと、個々の人物像を語り尽くせないので、少しでも気になったら映画館に足を運んでください。

小路 役者さんが本当に素晴らしくて、同じ役者だったら絶対に嫉妬するお芝居になっています。もちろん誰が見ても、その素晴らしさは伝わりますので、ぜひスクリーンで体験してください。

Information

『辰巳』
渋⾕ユーロスペースほか全国絶賛公開中!

遠藤雄弥 森⽥想
後藤剛範 佐藤五郎 倉本朋幸 松本亮
渡部⿓平 ⿔⽥七海 ⾜⽴智充 / 藤原季節

監督/脚本 ⼩路紘史
©⼩路紘史

稼業で働く孤独な⾠⺒(遠藤雄弥)は、ある⽇元恋⼈・京⼦(龜田七海)の殺害現場に遭遇する。⼀緒にいた京⼦の妹・葵(森⽥想)を連れて、命からがら逃げる⾠⺒。⽚や、最愛の家族を失い、復讐を誓う葵は、京⼦殺害の犯⼈を追う。⽣意気な葵と反⽬し合いながらも復讐の旅に同⾏することになった⾠⺒は、彼⼥に協⼒するうち、ある感情が芽⽣えていく。

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遠藤雄弥

1987年3⽉20⽇⽣まれ、神奈川県出⾝。2000年に映画『ジュブナイル』(⼭崎貴監督)で主⼈公の少年時代を演じ、映画デビュー。その後は多くのドラマ・映画・舞台に出演。近年の主な出演映画として『HiGH&LOW THE MOVIE』全シリーズ(16〜17/久保茂昭監督)、『幻肢』(14/藤井道⼈監督)『泣き⾍しょったんの奇跡』(18/豊⽥利晃監督)、『それでも、僕は夢を⾒る』(18/⼭⼝健⼈監督)、『無頼』(20/井筒和幸監督)などがあり、2022年には第47回セザール賞オリジナル脚本賞を受賞した『ONODA⼀万夜を越えて』(21/アルチュール・アラリ監督)に主演。以降、『の⽅へ、流れる』(22/⽵⾺靖具監督)や『ゴジラ−1.0』(23/⼭崎貴監督)など、多彩な作品に出演。今後も『室町無頼』(25/入江悠監督)など多くの作品の公開が控えている。

森田 想

2000年2⽉11⽇⽣まれ、東京都出⾝。2013年に『鈴⽊先⽣』(河合勇⼈監督)で映画デビュー。その後、『ソロモンの偽証<前篇・事件>/<後篇・裁判>』(共に15/成島出監督)や『⼼が叫びたがってるんだ。』(17/熊澤尚⼈監督)などに出演。2018年には、松居⼤悟監督の『アイスと⾬⾳』で初主演を務める。以降も『朝が来る』(21/河瀨直美監督)、『タイトル、拒絶』(21/⼭⽥佳奈監督)、『わたし達はおとな』(22/加藤拓也監督)、『THE LEGEND & BUTTERFLY』(23/⼤友啓史監督)など多くの作品に出演し、2023年には『愚純の微笑み』(宇賀那健⼀監督)で主演を務め、同年の主演映画『わたしの⾒ている世界が全て』(佐近圭太郎監督)では、マドリード国際映画祭外国映画部⾨にて主演⼥優賞を受賞している。

小路紘史

1986年生まれ。広島県出身。短編映画『ケンとカズ』が、SKIP シティ国際Dシネマ映画祭2011にて奨励賞を受賞。ロッテルダム国際映画祭、リスボン国際インディペンデント映画祭など4カ国で上映される。2016年に『ケンとカズ』を長編版としてリメイク、東京国際映画 祭日本映画スプラッシュ部門作品賞、新藤兼人賞・日本映画監督新人賞など、数々の新人監督賞を受賞。本作『辰巳』は、実に8年ぶりの監督作となる。

PHOTOGRAPHER:TOMO TAMURA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI,HAIR&MAKE:田中美希(遠藤雄弥)、江指明美(森田想),STYLIST:入山浩章(森田想)