高校時代のモラトリアム期間を救ってくれたのはロックだった

――相島さんは大学で演劇を始めたそうですが、今回はそれ以前のお話を伺いたいと思います。高校時代はどんな学生生活を送っていましたか。

相島 中学時代は勉強のできる頭のいい子で、高校は地元の進学校に行きました。ところが徐々にドロップアウトして、形而上学的な悩みにぶち当たるんです。

――形而上学的な悩みというと?

相島 人はなぜ生きるのか。人生とは一体なんぞや。勉強することにどんな意味があるのか。人が人を好きになることは一体どういうことか。そういうことを考え始めちゃったんですよね。僕は文学が大好きで、当時は坂口安吾や亀井勝一郎などの文学を読み漁る頭でっかちな男の子だったんです。大学時代は物書きになりたい気持ちもありましたし、今も坂口安吾は大好きです。今振り返ってみると、そういう文学趣味と、高校生になって勉強ができなくなったモヤモヤした気持ちが重なっちゃったんでしょうね。人生にどんな意味があるかなんて、自分で見つけるしかないんだけど、そんなことも当時は分からない。答えがないなら、生きていることに意味がないんじゃないかと自分を追い詰めて、自殺を考え始めたんです。そんなときに僕を救ってくれたのが音楽で、暇さえあればロックを聴くロック少年でした。

――傾倒していたミュージシャンはどの辺ですか。

相島 一番好きだったのはブルースロックです。もともとロックはビートルズから入ったんですが、ビートルズの「While My Guitar Gently Weeps」という曲のギターが本当に泣いているように聴こえて、弾いていたのがエリック・クラプトンだったんです。それでクラプトンについて調べていくうちに、イギリスでブルースロックというのをやっていたと知って、彼が所属していたジョン・メイオール&ザ・ブルースブレイカーズやクリームなどを聴いて。その延長線上でハンブル・パイ、フリー、ローリング・ストーンズなどを聴くようになりました。そうこうするうちにクラプトンがデレク・アンド・ザ・ドミノスというバンドを組んで、アメリカに渡って『いとしのレイラ』を作ったのを知る。そのアルバムでクラプトンとギターバトルをしているデュアン・オールマンという人は一体何者なんだということをきっかけに、デュアンのギターに惚れ込んで。そうするとサザン・ロックなどアメリカン・ロックも聴くようになって、アメリカのブルースロックに出会うんです。

――当時、高校生でいろんなレコードを聴くのは大変ですよね。

相島 高校2年生のときにロック研究会というのを校内で作って、高校卒業まで活動していたんですが、そこに所属していた仲間の好きなジャンルがバラバラだったんです。僕がブルースロック専門なら、ハードロック専門、パンクロック専門、さらにはアイドル専門もいて。アイドル専門の仲間はロック研究会なのにピンク・レディーが好きなんですよ(笑)。当時はアルバムが2500円ぐらいしたから、それぞれがお小遣いを貯めて買ったレコードを貸しっこしていました。

――本家である黒人のブルースは聴かなかったんですか。

相島 黒人のブルースを好んで聴くようになったのは大人になってからで40歳ぐらいのとき。若い頃は良さが分からなかったんですよね。20代で黒人のブルースにハマる方もいらっしゃいますから、理由は分からないんですが、僕の場合、どっぷり浸かったのはおじさんになってから。それから憂歌団、ウエスト・ロード・ブルース・バンド、上田正樹とサウス・トゥ・サウスなど、日本人のブルースも学生時代から好きでした。本家の黒人よりも、一つ屈折したホワイトブルースやイエローブルースが好きだったんです。

――相島さんは2010年にブルースバンドを結成して、ライブ活動も行っていますが、高校時代から楽器はやられていたんですか。

相島 クラプトンみたいになりたくてギターを弾こうと思ったんですが、たまたま家にあったのがガットギターで。家に一冊だけ教則本があったんですけど、それが古賀政男さんだったんですよ。それを見ながらアルペジオで「影を慕いて」を弾いてみるんですが、これを続けていてもクラプトンにはなれないなと(笑)。それで当時、「モーリス持てばスーパースターも夢じゃない」なんてラジオCMもありましたが、マルイで3万円ぐらいの安いフォークギターを買ったんです。ところがオープンコードしか押さえられないから、ブルース好きなのにフォークになっちゃうんです。それで挫折して、ギターは諦めました。

――当時、そのほかの楽器に挑戦したことは?

相島 二十歳そこそこの頃かな。ずっと楽器をやりたい気持ちがあって、サックスを買ったんですが、当時住んでいたのは四畳半一間。吹いてみたら割れるような音で、近所迷惑になるからと吹ける場所を探すんだけど、なかなか見つからなくて。あっという間に手放しました(笑)。