若い頃はライバルだった高橋克実、近藤芳正、六角精児も今は親友

――現在の相島さんはブルースハープの腕前に定評があります。どういうきっかけで始めたのでしょうか。

相島 僕は若い頃ショーケンさん(萩原健一)が俳優としても、ロッカーとしても大好きで、一時期、柳ジョージとレイニーウッドをバックに従えて音楽活動をされていた時期があったんです。その前からショーケンさんはハーモニカを吹いていたんですが、その頃のライブや映画でハーモニカを吹いていたのが特にかっこよくて。それを改めて聴いたときに、ちょっと待てよと。クラプトンが好きだからギターメインでブルースロックを聴いていたけど、ハーモニカメインで聴いてもかっこいいなと気付いて、我流でハーモニカを吹き始めんです。それが二十代半ばぐらいです。ただ最初はハーモニカを吹いても、どうしてもブルースにならなくて。ところが急にブルースになった瞬間があって、そのときに「吸えばいいんだ」と気付いたんです。

――偶然発見したんですね。

相島 我流だから分からなかったんですよ。ハーモニカはポジション奏法によって音色を変えていくんですが、基本的にブルースハープは穴が10個あって、ファーストポジションといってドレミファソラシドを普通の音階で吹くと、普通の音楽に聴こえるんです。ところが完全4度上のキーを使用するセカンドポジション奏法といって、分かりやすく言えば吸う音をメインにドレミファソラシドを吹くと、ブルーノートというのが生まれてブルースになるんです。今はこうやって説明できるんですけど、たまたま吹いてみたらブルースっぽくなったんですよね。そんなことを繰り返していくうちに、今バンドでやっているようなスタイルになっていきました。ハーモニカを吹き始めて、かれこれ40年近くになりますね。

――バンドを始めたきっかけは何だったのでしょうか。

相島 そうやって遊びでハーモニカを吹いていたときに、『19 ナインティーン』(2000)というドラマで音楽監督をやっていたYASS(ヤス)というミュージシャンと出会うんです。その番組で僕が演じたのは、広島のライブハウスの主みたいなミュージシャンの役で。みんなから尊敬されているんだけど、あまり歌は上手くない。じゃあ具体的にどんな歌を歌うんだとYASSと話し合ったときに、「昔こんな歌を作ったことがあるんだよ」って過去に僕が作ったいい加減な歌を披露したんです。「俺の髪の毛はよく抜ける」という若い頃の不安を歌ったブルースなんですけど、それを歌ったらYASSが「それいいね!」と言ってくれて。その曲がドラマで採用されて、そこから意気投合して彼のライブに遊びに行くようになって、たまに飛び入りでハーモニカを吹いていたんです。それで2010年、僕が50歳手前、YASSと知り合って10年経ったときに、ようやく一緒にバンドをやろうという話になったんです。それが「相島一之&The Blues Jumpers」です。

――相島さんが親交のある俳優仲間にも、音楽好きな方は多いですよね。

相島 多いですね。たとえば親友の六角精児も音楽が大好きで、彼が組んでいる六角精児バンドでハーモニカを吹かせてもらったこともあります。最近、一緒に音楽をやってないので、またやりたいんですけどね。六角と言えば、ちょっと話が逸れるんですが、下北沢に「宝湯」という夜中の1時までやっている銭湯があったんです。30年以上前に通っていたんですが、場所柄、閉店間際に行くと演劇をやっている客が多くて。そこに六角を始め、高橋克実、近藤芳正なんかがいて、当時はお互いにライバルで負けたくないから、みんな仲が悪かったんです。ガラガラって銭湯に入っていくと、「ああ……劇団離風霊船の高橋克実がいる」「劇団七曜日の近藤芳正がいる」「善人会議の六角精児がいる」と。嫌だなーと思いながら、それぞれが誰とも喋らずに体を洗う(笑)。それが今では3人とも親友ですから。年もほぼ一緒。人生は面白いですね。

――まだまだお話を伺いたいんですが、最後に『逃奔政走』の意気込みをお聞かせください。

相島 とにかく、このメンバーで芝居をやれるのが楽しみなんです。保奈美さんは、僕が演劇の世界から映像の世界に入ってきたときのトップランナーの俳優さん。『東京ラブストーリー』を始め数々のドラマで主演を務めていらっしゃって、僕も何度か共演させていただいたんですが、当時からキラキラした大スター。佐藤B作さんは、30年前に東京サンシャインボーイズでご一緒して以来の舞台共演で、心から尊敬する先輩。寺西拓人くんはミュージカル『マイ・フェア・レディ』で共に頑張った戦友。そこにアガリスクのメンバーなども加わって、それぞれが腕に覚えのある人たちですから、一緒に芝居をやったときに相乗効果でどんなコメディが生まれるのかが一番の楽しみです。

※2024年5月21日 、YASS氏が永眠されました。ご逝去を悼み、謹んでお悔やみ申し上げますとともに、心からご冥福をお祈りいたします。

Information

舞台『逃奔政走(とうほんせいそう)-嘘つきは政治家のはじまり?-』

【東京公演】
公演期間:2024年7月5日(金)~16日(火)
会場:三越劇場

【京都公演】
公演期間:2024年7月20日(土)~21日(日)
会場:京都劇場

脚本・演出:冨坂友
出演:鈴木保奈美 寺西拓人 相島一之 佐藤B作 ほか
制作:アガリスクエンターテイメント
主催:フジテレビジョン

クリーンなイメージと圧倒的な女性人気で当選した小川すみれ県知事(鈴木保奈美)は、大ピンチをむかえていた。知事室の中に豪華なシャワールームを作ったことが議会やメディアで追及され、「贅沢趣味だ」「税金の無駄遣い」と批判され始めたのだ。無茶な答弁としょうもない屁理屈を駆使しつつ、あの手この手で追求を逃れようとする小川陣営。この一見しょうもないスキャンダルに見える事件の裏には、より大きな政治とカネの火種が隠されていたのだった。自分の理念と政治生命のため、なりふり構わず奔走する小川知事は、追及から、しがらみから、逃げ切ることができるのか?そして小川知事の下した決断は……?

公式サイト

相島一之

1961年11月30日生まれ。埼玉県出身。1987年、三谷幸喜主宰の東京サンシャインボーイズに入団。94年、劇団の充電期間突入まで主要メンバーとして活躍。以降、舞台、TV、映画など活躍の場を広げる。近年の出演作に、【舞台】『多重露光』『After Life』『ハートランド』(23)、『歌わせたい男たち』『貴婦人の来訪』『マイ・フェア・レディ』(22)【ドラマ】『アンチヒーロー』(24)、『それってパクリじゃないですか?』『幸運な人』(23)、『生ドラ!東京は24時』『大川と小川の時短捜査』『鎌倉殿の13人』(22)など。

PHOTOGRAPHER:YUTA KONO,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI,HAIR&MAKE:国府田雅子(バレル),STYLIST:中川原有(CaNN)