適当な理由や言い訳を作っていた自分が嫌いだった

――雪子は誰に対しても本音を口にすることを避け、自分の気持ちをラップに託しているところがあります。そういう面でも共感する部分はありましたか。

山下 昔の自分はそうでしたし、今でもたまにそうかもしれません。自分の意見は持っているのに、いざ口に出そうとしたときに、その言葉で誰かを傷つけないかなとか、意図じゃない捉え方をされないかなとか、考えているうちに時間が過ぎてしまって、結局何も言わないほうが平和でいいや、なんて思ってしまったり。でもそうやって、心の中で適当な理由や言い訳を作っていた自分が嫌いだったんです。そんな自分を変えるための挑戦が、雪子にとってのラップで、私にとっての独立だったんだと思います。

――今回、「いろいろな意見を言わせていただいた」と仰っていましたが、たとえばどういう意見を言ったのでしょうか。

山下 私の学生時代の思い出は楽しいことばかりじゃなかったです。いじめもあったし、先生に対してもトラウマがあったりして、いつからか私は不登校になっていました。今回、改めて先生という立場ではありますが、不登校だった私だったからこそ、当時の学生だった自分が言われたくなかったこと、気づいてほしかったことなど、細かな小さいことではありますが、いろいろ言わせていただいた印象です。クライマックスで教え子の弾くピアノに合わせてラップをするシーンは特に彼の心に寄り添いたかったですし、雪子の気持ちを一方的に押し付けたくないというところで、どこまで遊びのような雰囲気にするかなど、リリックも含めて草場監督とたくさん話しました。

――心情以外の面でも、山下さんから提案することはあったんですか。

山下 雪子の服も、私物を使ってもらったり、新たに買わせてもらったり。メイクも自分でやりました。タイトなスケジュールだったので、できる限り早く雪子に馴染んでいく選択をしたかったですし、それも役作りの一環でした。

――ラップの練習以外で、事前に準備したことはありますか。

山下 どの作品でも基本的に毎回やるんですが、演じる役の細かいプロフィールを作ります。趣味は?特技は?初恋の人は?と、何気ない日常のその役としてその場でいる手の感触とか。半生を一度頭の中で生きてみる。なんてのはカッコつけた言い方ですが(笑)。単純に言うと、ひたすら妄想しているだけなんですけど!思い出や記憶を作り込むと、シーンとシーンの間に何があったのかイメージしやすいですし、そういう細部が何気ない会話にも活きてくる気がします。今作は雪子が主人公だったこともあり、情報量も多い分、いつも以上にやりました。でも、一番印象に残っているのは、雪子が担当するクラスの生徒の皆さんとレクリエーションをする日を設けていただいたことです。雪子として授業をさせてもらったり、一緒に工作やサッカーもしました。その日に雪子が、なぜ良い先生になりたかったのか、答えが見つかったんです。

――実際の学校でロケしたんですか。

山下 そうです。今回、明星学園さんが、全面的に協力してくださいました。事前のレクリエーションのお陰で、生徒の皆さんと距離を縮められました。実際、本番以外も休憩できないくらい、ずっと話しかけてもらえるほどで(笑)。

――もともと子どもと接するのは得意でしたか?

山下 いえ、私は末っ子でしたし、周りにも年下がいなかったので、むしろ今までは苦手だと思っていたんです。ただ、やたら子どもに懐いてもらえる体質ではあるんですけど(笑)。でも、歳ですかね。生徒のみんなが愛おしすぎて、そんな自分に正直驚きました。こんなに純粋で心が綺麗な、輝いている子どもたちが今目の前にいるって、奇跡のように素晴らしいことだなと思って。みんなの名前をレクリエーションの一日で覚えられるほど、個性的でとっても素敵な生徒たちに出会えたことに感謝しています。