実在する竜神伝説。自分自身も物語の一部になっていく感覚がある
――今回の舞台は泉鏡花生誕150年、さらにPARCO劇場開場50周年の記念公演です。オファーを受けた際の気持ちについて教えてください。
入野自由(以下、入野) PARCO劇場で初めて舞台を観たのは10代の頃だったんですが、当時から“魔法のように素敵な作品を上演している場所”というイメージでした。その後もよく観劇に行き、いつかこの劇場に立ちたいと思い続けていた20代の時に、旧PARCO劇場に出演させていただきました。新しくなった劇場にもまた、と願っていたこのタイミングで出演できることは素直にうれしいです。
――泉鏡花の世界を忠実に再現した台詞を覚えるのは大変ではないでしょうか。
入野 台詞というか、言葉のハードルが高いですね。泉鏡花ならではの美しい言葉遣いだったり、100年以上前の戯曲ということもあって、イントネーションや言い回しが難しい。一つひとつの言葉の意味をちゃんと理解していないと喋ることができないので、ここ最近の中では1番時間がかかっているかもしれません。
――現代の言葉遣いとは、表現方法も大きく違いますよね。
入野 そうですね。当時の流行り言葉もあるので。その分、繊細さや日本語の美しさを実感するというか。たとえば「髪の艶」を表現するにも、いろんな言い方があるんですよね。そういうのは現代で失われている部分なのかもしれない、というのはすごく感じています。
――役づくりはどのようにされているのでしょうか?
入野 まさに今、いろいろ考えながら役づくりしている最中です。今回の役は年齢が明確に記されてないんですが、たとえば30半ばだったとして、おそらく当時は今より年齢感が上じゃないですか。
――たしかに、今の30代半ばより貫録があるイメージですね。
入野 しかも僕の演じる山沢学円は、京都大学の教授で浄土真宗本願寺派の坊主という役柄なので、より落ち着いた感じにしたほうがいいのかな、とか。自分1人で考えるとどうしても若い役づくりになりがちなので、演出の森新太郎さんにもアイデアをいただきながらいろんなことを試しているところです。
――森さんから、「こんなふうに演じてほしい」といったリクエストはあるのですか?
入野 ほかのキャラクターとの対比もあるので、年齢はちょっと上げてもいい、ということは言われました。瀧内公美さん演じる百合はピュアな村娘というイメージなんですが、同じぐらいの年齢に見えないよう、余裕のある大人として振る舞うほうがいいと。これまでも年齢が高い役を演じた経験はあるんですが、口調も含めてバランスに悩んでいます。
――今回、初座長を務める勝地涼さんの印象について教えてください。
入野 勝地さんとは2011年にアニメ「UN-GO episode:0 因果論」でご一緒したことがあって。今回は舞台で共演できるのでうれしいです。久々の再会でしたけど活躍はずっと拝見していたので、僕はそこまで久しぶりな感じがありませんでした。とても熱くてハートのある方なので、ついていきます!って気持ちです(笑)。
――先ほどお名前が挙がっていた瀧内さんについては、いかがでしょう?
入野 瀧内さんは今回が初共演なんですが、勝地さんも含めて同世代ということもあり、一緒に悩みながら3人で本読みしているんです。3人での場面も多いですし、芝居の冒頭は瀧内さんと2人で演じるので、「ここ重要だよね、どうしようか」と、よく相談してます。
――本作は竜神や妖怪が出てくる、ファンタジー要素の強い作品です。入野さんはそういった世界を信じるほうですか?
入野 絶対にないとは思っていません。基本的に何でも肯定するというか、微かにでも信じる気持ちを持っていたほうが楽しいんじゃないかな、というタイプです。特に本作のモチーフである夜叉ヶ池伝説(※福井県と岐阜県の境界付近にある、夜叉ヶ池にまつわる竜神伝説)は、言い伝えとして実際にあるものですし。役づくりでいろんな資料を読んだり、YouTubeで夜叉ヶ池に行った人の動画を観ていると、自分自身も物語の一部になっていくような感覚になります。
――実在する場所であり、歴史もありますからね。
入野 それに古くからの言い伝えって、大規模な洪水とか、実際に起こった事象がもとになって伝説化したものが多いじゃないですか。なので知れば知るほど、当時何が起きたんだろうと想像してしまうんです。ぜひ皆さんにもそんなふうに観てもらえたらうれしいです。