思春期のモヤモヤを解消してくれるのがパンクロックだった

――映画『GOLDFISH』はパンクバンドの再生と葛藤を描いた物語ですが、永瀬さんはティーンの頃からパンクロックがお好きだそうですね。出会いはいつ頃でしたか?

永瀬正敏(以下、永瀬) 13歳か14歳です。学校の先輩がバンドを組んでいて、ラジオでエアチェック(※個人が私的に楽しむためにラジオなどの放送番組を録画・録音すること)したテープを一緒に聴いていました。ザ・クラッシュやセックス・ピストルズをリアルタイムで聴いて「うぉ、カッコ良い!」って。アマチュアながら自分でバンドを組み始めたのもその頃です。

――パートは何を担当されていたのでしょうか?

永瀬 一応ギターだったんですけど、下手すぎてバンド内でクビになりました。「お前は歌に専念しろ」って。僕はギターが弾きたかったんですが(笑)。

――ギターを持たせてももらえなかった、と。

永瀬 はい、僕が下手くそなせいで全く(笑)。彼はベースですがシド・ヴィシャスみたいに腰の下でギターが弾きたかったけど、雑誌を見てもオープンコード(※弦を押さえない演奏方法)のやり方が載ってなくて、適当にやってたらどんどんリズムがずれちゃって。

――当時は洋楽を中心に聴いていたのですか?

永瀬 邦楽・洋楽問わず面白いバンドを先輩が教えてくれていました。何しろ、出身が九州の宮崎なんで。九州でバンドをやっている奴らは、東京よりも海外よりも、まずは博多を目指す時代でしたから。

――かつて博多は「めんたいロック」と呼ばれるほどのバンドブームでした。パンクロックのどのようなところに惹かれたのでしょう?

永瀬 何しろ、全く聴いたことがない音楽だったんでね。海外のバンドなんで何を歌ってるか全然分かんなかったけど、とにかく衝撃でした。世代的にリアルタイムでこそないですが、ザ・ストゥージズのイギー・ポップとかは中学時代の僕にとって神様みたいな存在です。

――ストゥージズは当時でもメジャーな存在ではないですよね。

永瀬 若い世代の方だとあまりピンとこないかもしれないですけど、当時はレンタルレコード屋というのができ始めた頃だったんです。あと地元に小さな楽器屋があって、そこの店長さんがマニアックな人だったからいろいろ教えてもらいました。あんなカッコ良い服も売ってないし、買えないし、とりあえずTシャツを切るしかねぇかっていう(笑)。

――音楽だけでなく、ファッションの影響も受けたのですね。

永瀬 そうですね。今でもパンクテイストってほどでもないですけど、ちょっとひねりのあるデザインが好きだったりします。

――永瀬さんはイギー・ポップやジョー・ストラマー(※パンクロックバンドのザ・クラッシュのボーカリスト)にもお会いになっているんですよね。

永瀬 いやぁ、信じられなかったですね……本当に信じられなかったです。

――神様のような存在の方ですもんね。

永瀬 そうですそうです!僕の経験上、絶対的な自信を持って言う話なんですけど、「本物」と呼べる人間って繊細で良い人なんですよ。イギーもジョーも本当に素晴らしく良い人なんです。

――お会いした時はどのような話をされたのでしょう?

永瀬 イギーなんて、「初めまして」ですぐに自宅の電話番号を僕にくれたんですよ。「君、ニューヨークにしばらくいるんでしょ。困ったことがあったら連絡してくれ」って。ジョーもいろんなことを語ってくれてね。いやもう、今考えると本当に信じられない。出会いがみんなドラマチック過ぎて。

――お二人とも、仕事を通じてお会いになったのですか?

永瀬 ジョーとは同じ映画(※1989年公開の『ミステリー・トレイン』)に出演しました。撮影中は会えなかったんですがプレミア上映会で話す機会があり、そこでもすごく良くしてもらって。それからずっと良くしてもらいました。イギーはジム・ジャームッシュ監督から紹介していただいたんです。家に遊びに行ったら「今日はスペシャルゲストがいるぜ」と言われて。部屋に入っていったら、シルエットがどう見てもイギーで。その時は冬だったんですけど、やっぱ裸に革ジャンでしたけどね(笑)。

――イメージ通りのイギー(笑)。それは感動しますね。

永瀬 同じ古着屋で革ジャンを買ったことが発覚したりして、すごくうれしかったです。

――永瀬さんが考える、パンクロックの魅力とは何でしょうか?

永瀬 単純に音楽やファッションが衝撃的だったというのもありますけど、やっぱり13歳とか14歳の頃って、本当に微妙な時期じゃないですか。「まだ子どもだからやっちゃダメ」って言われることもあれば、「もう大人なんだから、ちゃんとしなさい」って言われることもあって。その狭間で感じるモヤモヤ感みたいなものを解消してくれる感じがあった気がしますね。まぁ、理屈抜きに好きになったっていうのが1番かもしれませんけど。