多感な時期にいろんな出会いが重なった自分は超ラッキー

――高校1年生の時に映画『ションベン・ライダー』で俳優デビューされていますが、きっかけはオーディションだと伺っています。応募した理由について教えてください。

永瀬 ある意味パンク・スピリッツにも通じるんですけど、当時僕、ものすごく厳しい学校に通っていたんですよ。だから、大人と言われている人たちができないことを非暴力的に何かやってやろうと思ったんです。新聞に載っていたオーディションの記事を見つけて、友達に「応募してみなよ」と言われて。写真好きの友達がポートレートを撮ってくれたので、それを1枚もらって送りました。「あんたら大人には、こんなことできないでしょ」ってことをやりたかったんでしょうね。だから応募した時点で達成感がもうあったんです。

――きっかけは大人への反骨精神だったのですね。

永瀬 一次審査で日頃思っていることについて作文を書いたんですが、たぶん不平不満ばっかり書いたと思います。「学校って何なんだ」とかその程度ですけど。だから、最終選考まで残っちゃった時はちょっと焦りましたよ。周りはみんなカッコ良くて髪型も決まってて、標準語だし(笑)。「もう無理でしょ、これ」って思ってました。でも、かえってそれが良かったのかもしれないですね。力が入っていなくて。

――相米慎二監督の演出は厳しいことで知られています。多感な時期にそうした大人と向き合うのはどんなお気持ちでしたか?

永瀬 もうずっと「何言っちゃってんだよ」と思ってました(笑)。全くの素人を捕まえて何にも教えてくれない監督だったので。今思えば、芝居に対する羞恥心がなくなるまで何も言わずじっと待ってくれてたんだと分かりますけど、やってる当時は「もう勘弁してよ」って。2、3日リハーサルだけで終わっちゃうこともザラでしたから。

――カメラを回さない日もあるそうですね。

永瀬 そうなると、そりゃあ素人でも感じるわけですよ。何十人もの大人がいて、今日も撮れなかったって言いながらみんなが帰っていくのを見て、どうしよう……って。同時に心の中でこの野郎!とも思ってましたけど。でも、今役者を続けていられるのは相米さんのおかげですし、いつの間にか相米さんのことが大好きになっていたんですよね。

――どうしてそう思えるようになったのでしょう?

永瀬 どこかに必ず愛があったわけですよね、きっと。みんなえらい口調で怒られてたし、僕なんか名前も呼ばれたことないですから。でも子どもって案外感じ取るんですよ、そこにちゃんと愛があるんだっていうのを。だから嫌いにならないし、なれないですよね。

――役者の道に進もうと明確に思ったのはいつ頃からですか?

永瀬 その時の撮影の最終日です。クランクアップの時に「ここから離れたくない」って思ったんですよね。周りの大人がちゃんと自分を見てくれたっていうのかな。正当に怒られて正当に褒められるっていうのが、すごく心地良かった。それまで僕が出会ってきた大人とは違ったというか。

――発言や扱い方に理不尽さを感じなかったのですね。

永瀬 そうですね。あとは、たかが何秒のシーンを撮るのに大人が集まって一生懸命準備して全力を尽くしていく感じとかは、何の経験がない自分も見て分かりましたし、そういう中で藤竜也さんや財津一郎さんといったベテランの皆さんとご一緒できるというは、ちょっとたまんなかったんですよね。

――現在も映画を中心に活動されているのは、その時のご経験があるからなのでしょうか?

永瀬 やっぱり映画でデビューさせてもらったっていうのは大きいですし、相米慎二の呪縛でもあるかもしれない(笑)。ただ僕、若い時に映画に出られない期間が5年ぐらいあって、その間もさまざまなテレビドラマの監督さんやプロデューサーさんに助けていただいたので、映画以外を否定するつもりは全くないんです。ついつい選んでしまうのは映画が多いというだけで。

――若い読者に向けて、アドバイスやメッセージをお願いします。

永瀬 アドバイスですか……。思えば僕は超ラッキーなわけですよ。高校1年生という多感な時期にいろんな出会いと偶然が重なって。相米監督もですけど、特にオーディションの記事に出会えたのが大きかったですよね。友達がたまたまカメラ好きで、写真を撮ってくれて書類を書いて送って。「青春の思い出に1本だけなら良いだろう」と親に許可をもらって出たはずが、今でも続けちゃってますから。そういう意味では僕、親不孝の大嘘つきなんでえらそうなことは言えないんですけど。ただ何かに興味を持ったら一歩踏み出す勇気と言うか、半歩でもいいから踏み出して、ちょっと行って様子を見てみるのもアリかもねという。そこからまた道が変わることだってあるし、それはそれで良いわけですから。

――道は1つだけじゃないから、まずは踏み出してみよう、と。

永瀬 研究者になって人類を救う人になるのも良いし、スポーツに夢中になるのも1つの道だし。無数に選択肢がある中で、少しでも面白そうだと思ったら気軽な感じで覗いてみて、ダメだったらまた変えりゃいいっていう。……なんて、結局えらそうなこと言っちゃってますけど、すんません(笑)。

Information

『GOLDFISH』
絶賛公開中!

キャスト:永瀬正敏  北村有起哉 渋川清彦 /町田康 /有森也実
増子直純(怒髪天) 松林慎司 篠田諒 山岸健太 長谷川ティティ 成海花音

80年代に社会現象を起こしたパンクバンド「ガンズ」。人気絶頂の中、メンバーのハル(山岸健太)が傷害事件を起こして活動休止となる。 そんな彼らが、30年後にリーダーのアニマル(渋川清彦)の情けなくも不純な動機をきっかけに、イチ(永瀬正敏)が中心となり再結成へと動き出す。 しかし、いざリハーサルを始めると、バンドとしての思考や成長のズレが顕になっていく。 躊躇いながらも、音楽に居場所を求めようと参加を決めたハル(北村有起哉)だったが、空白期間を埋めようとするメンバーたちの音も不協和音にしかならず、仲間の成長に追い付けない焦りは徐々に自分自身を追い詰めていった。 そして、以前のように酒と女に溺れていったハルの視線の先に見えてきたものは――。

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永瀬正敏

1966年7月15日生まれ、宮崎県出身。高校1年生の時に映画『ションベン・ライダー』俳優デビュー。以降、作品の内容が気に入れば規模や場所にかかわらず出演するスタンスで、国内外の映像作品に数多く出演。日本アカデミー賞をはじめ数々の賞を受賞するなど、日本を代表する俳優の一人。そのほか、写真家としての顔も持つ。

PHOTOGRAPHER:HIROKAZU NISHIMURA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI,HAIR&MAKE:YASUHIRO WATANABE,RINO OKETANI,STYLIST:YASUHIRO WATANABE,
衣装提供
コート¥433,400、シャツ¥173,800、パンツ¥323,400
YOHJI YAMAMOTO(ヨウジヤマモトプレスルーム/03-5463-1500)、他スタイリスト私物