ある時、いろんな芝居のアイデアが出てきて止まらなくなった
――北村さんが演技を始めたきっかけについて教えてください。
北村 高校時代の文化祭で、演劇に巻き込まれまして。クラスの出し物があって、参加せざるを得ないっていう状況だったんです。女子は張り切って真面目な文芸路線をやろうとしていたんですけど、小声で僕が「ジャッキー・チェンがやりたい」と言ったら、多数決で決まっちゃって。
――そうだったんですね(笑)。その時はどんなお芝居をされたのでしょうか?
北村 いろんな要素を入れたカンフーのオリジナルストーリーです。僕がジャッキー・チェンの師匠をやって、クラスでバク転ができるカッコ良い奴に「お前、ジャッキーやって」と言って。最終的に気づいたら自分が仕切ってました。それが結構大ウケで、校内で評判だったんですよ。そこから「何だこれ、面白いぞ」とどっぷりハマっちゃって。で、翌年は『仁義なき戦い』をやって。
――よくその案が通りましたね(笑)。
北村 でも、良いものになるという確信はありました。そもそも、自分たちが楽しくないと意味がないですしね。
――そこから高校卒業後に日本映画学校(※現日本映画大学)へ進学されたのですね。
北村 そうです。大学受験に失敗して1年浪人しているので、19歳で入学しました。
――同じ夢を持つ人たちとの学校生活はいかがでしたか?
北村 それで言うと、ちょっと拍子抜けしてしまったというか。全国から集まった同級生がフワフワしていて。入学するために地方から上京してきて、私の未来は明るい!みたいな、もうみんなキラキラしてたんです。だけど僕は「これから修行が始まるんだ」みたいな現実主義だったから、ギャップがあり過ぎて全然友達ができなかったです。
――思い描いていたものとは違ったのですね。
北村 入学式に今村昌平さん(※日本映画学校を創立した映画監督)が挨拶で「こんな学校に来ても何の役にも立たないからな、お前ら」っていきなり言った時は、この人すごいなって思いましたよ。結局そこは1年で辞めてしまいました。
――その後、北村さんは『カンゾー先生』『赤い橋の下のぬるい水』と今村作品に出演します。
北村 そうなんです。中退して3年後だったかな?僕が辞めたことを覚えてましたよ。「お前、何しに来たんだ」と言われて、「オ、オーディションです」みたいな(笑)。
――学校を辞める時にはもう、役者の道で行くことを決意されていたのですか?
北村 そうですね。学校に通いながら別の俳優養成所にも行ったり、いろいろ自分なりに動いていましたから。そっちで出会った仲間は意識も高かったし、無茶苦茶な人が多くて面白かったです。
――これまで多くの作品に出演されていますが、ターニングポイントになった作品を挙げるとしたら何になるでしょう?¥
北村 僕の場合は舞台です。当初は舞台を中心に活動していたんですが、あるワークショップオーディションで出演メンバーに選ばれたことがあったんです。その時、あえて配役を決めずに毎日違う役をそれぞれが演じるという実験的な稽古をしていて、日々どうやって表現しようか考えていたんですけど、ある日突然、いろんな芝居のアイデアが出てきて止まらなくなったんです。勝手に芝居が降りてくるような、言葉で上手く表現できないんですけど、そういうことがあったんです。
――それはすごいですね。
北村 それで、その日の朝に出てきたアイデアをそのまま稽古場で発表したら、「それ面白いね、じゃあ有起哉はその役で決まり」と言われて。最終的に主人公の相手役をやることになったんですけど、そこから全てが始まりました。その舞台を観てくれたいろんな関係者の方から「次、うちに出てくれないか?」と直接オファーをいただくようになって。演じるたびに違う方が来て声をかけてくださって、という数珠つなぎが起きたりもしました。
――それはおいくつの時ですか?
北村 22歳とか23歳とかですね。テレビのプロデューサーさんや映画の監督さんがたくさん観に来てくださって、すごくうれしかったのを覚えています。
――では最後に、今後の目標について教えてください。
北村 一つひとつの仕事が勝負だというスタンスは昔から変わっていません。今もいろんな方の力をお借りしながら頑張っていますけど、自分が怠けてしまえば仕事はどんどん減っていくでしょうから、ずっと戦い続けていかないと、攻め続けていかないとっていうのは考えています。そこだけは絶対に錆びちゃいけないなって。これからも今まで通り油断しないで、調子に乗らないで、プライベートも気をつけて(笑)、やっていけたらと思います。
Information
『GOLDFISH』
絶賛公開中!
キャスト:永瀬正敏 北村有起哉 渋川清彦 /町田康 /有森也実
増子直純(怒髪天) 松林慎司 篠田諒 山岸健太 長谷川ティティ 成海花音
80年代に社会現象を起こしたパンクバンド「ガンズ」。人気絶頂の中、メンバーのハル(山岸健太)が傷害事件を起こして活動休止となる。 そんな彼らが、30年後にリーダーのアニマル(渋川清彦)の情けなくも不純な動機をきっかけに、イチ(永瀬正敏)が中心となり再結成へと動き出す。 しかし、いざリハーサルを始めると、バンドとしての思考や成長のズレが顕になっていく。 躊躇いながらも、音楽に居場所を求めようと参加を決めたハル(北村有起哉)だったが、空白期間を埋めようとするメンバーたちの音も不協和音にしかならず、仲間の成長に追い付けない焦りは徐々に自分自身を追い詰めていった。 そして、以前のように酒と女に溺れていったハルの視線の先に見えてきたものは――。
PHOTOGRAPHER:HIROKAZU NISHIMURA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI,HAIR&MAKE:榊原みさと,STYLIST:吉田幸弘