誰かの日常の目立っていない部分にスポットライトを当てられたら
――28枚目のシングル「spotlight」がリリースとなります。この楽曲を制作することになった経緯を教えてください。
高橋優(以下、高橋) NHK 夜ドラ「褒めるひと褒められるひと」というドラマがはじまるので、その主題歌をいかがですか?とお声がけいただきました。「褒めるひと褒められるひと」は漫画が原作なので、漫画を読んだ後、ドラマのスタッフさんとお話させていただきました。
――原作を読まれていかがでしたか?
高橋 僕はアルバイト以外で、企業で働いたことがないのですが、この漫画の舞台となっている「総務部」ってみんなの困りごとを解決する、縁の下の力なんです。なかなかスポットライトが当たりづらい部署で、主人公の市川さんはまだまだ仕事に不慣れな部分があり、上司に怒られて、「たまには褒められたいな…」とボソッと言って、先輩の坂東さんに褒めてもらうというお話です。普段スポットライトが当たらない場所での面白いことが、たくさん描かれていて、途中からはずっと笑って読んでいました。
――ストーリーの魅力を歌詞に投影した部分もありますか?
高橋 ドラマのスタッフさん達とお話した時に「褒められている気分になる曲にして欲しい」と言われて、面白いオーダーだけれど難しいなと。スタッフさん3人に「どんなことを褒められたら嬉しいですか?」と聞いたら3人とも「特別なことをした時に褒められるのではなくて、日常的にやっている事を見ていてほしい」と。それを聞いてなるほど!と思いました。特別なことをしたらスポットライトが当たるけど、「誰にも見ていないだろうな」という部分を褒められたら「ちゃんと見ていてくれたんだな」と思いますよね。
――確かにそれはすごく嬉しいですよね。
高橋 人のことを「褒めたい!」と思うことはあまりないのですが、気付いたことを伝えることはよくあります。「いつもちゃんとしていて、すごいと思う」と感想を伝える感じというか。人に思いを伝えることは大事だなということが、歌詞の制作につながりました。褒めたつもりでもそれが悪い方に受け取られることもありますが、こうやってスタッフさん達の気持ちを聞いたことで、自分のトピックスとして置き換えることが出来ました。誰かの日常の目立っていない部分にスポットライトを当てられたら良いなと思います。
――「誰かのための当たり前を作るのは機械じゃない」という歌詞が、とても素敵だなと思いました。
高橋 そうだと思うんですよね。今はテクノロジーの進歩がすごいじゃないですか。曲を作ることも出来たりして、すごいなと思う反面、鳥肌も立っていて。僕が生きてきた時代では機械じゃない、頑張っている人がいて成り立っていて、そういったことを考えながら書きました。秋田でフェスを主催しているのですが、フェスの会場の近くにあるお饅頭屋さんや佃煮屋さんを取材することがありました。工場で生産していると聞くとある程度機械がやっているのかな?と想像するのですが、美味しいと言われているものって大体が手作業なんですよね。重かったり、暑かったりする中、一生懸命手で作っている人のおかげで美味しいものを食べることができています。
――それこそ、高橋さんの楽曲は絶対に機械には作れないと思います。
高橋 そうだと良いんですけどね。最近バンドメンバーが機械で曲を作ってみたら、結構いい感じで。こわ!と思いました(笑)。でもいつも励まされているのが、宮崎駿さんがおっしゃっていた「どんなにテクノロジーが発達しても、手描きのアニメーションは無くならない。下駄屋が無くならないのと同じ」という言葉です。今はステージにアーティストがいないライブでアリーナが埋まったりもしますが、それはそれで一つの文化として良いと思いつつ、僕はギター一本で歌うことを突き詰めていきたいなと思っています。