シンプルに家族の会話だけで繋げていく骨太な舞台
――『「これだけはわかってる」〜Things I know to be true』の台本を初めて読んだときの印象をお聞かせください。
入江 めちゃくちゃ良い戯曲だなと思ってわくわくしましたし、自分がこの作品に出られることがうれしかったです。良い作品だからこそ大きな壁になると思ったので、それを乗り越えていかなければならない緊張感もありました。
――キャストが6人で、濃密な家庭劇が繰り広げられます。
入江 シンプルに家族の会話だけで繋げていく物語なので、骨太だなと思いました。徹底的に役と向き合わないといけないというプレッシャーもありますね。
――入江さんが演じる次男のベンには、どんな印象を受けましたか。
入江 一番過保護でのびのびと育てられた子ども。僕以外の家族はセクシャリティだったり、失恋だったり、パーソナルな問題を抱えているんですけど、一人だけ問題の種類が違う、成長しきれてない、大人になりきれてない役なのかなと思います。だから、他の兄弟とは違う一面を作品で見せていかなくちゃいけないなと考えています。
――海外の家族なので、日本のコミュニケーションとは違う部分もあります。
入江 文化が違いますからね。会った瞬間にハグしたり、ほっぺたにキスをするような家族なので、適度な距離感を保っている家族の関係性ではない。どちらかというと、近過ぎるからこそのジレンマが描かれているので、その関係性をキャストの方々と築き上げて、分裂させていく過程を大切にしたいです。
――いろんなキャラクターがいますけど、一番共感できるのは誰ですか?
入江 この作品の良い部分は、今の自分と、これからなるであろう自分が書き起こされているところなので、両親の気持ち、4人兄弟の気持ち、それぞれに共感できました。
――最後に舞台の意気込みをお聞かせください。
入江 子どもたちと親、どちらにも焦点がしっかり当たっていて、どの世代にも必ず感じるものがある作品なので、ぜひ劇場に足を運んでください。
Information
『「これだけはわかってる」〜Things I know to be true』
日時:2023年6月30日(金)~7月9日(日)
場所:東京芸術劇場シアターウエスト
出演者:南果歩 栗原英雄 山下リオ 市川知宏 入江甚儀 山口まゆ
作:アンドリュー・ボヴェル 翻訳:広田敦郎 演出:荒井遼
美術:牧野紗也子 衣裳:ゴウダアツコ 照明:榊󠄀美香 音響:森谷公一 ヘアメイク:山本絵理子 ステージング:王下貴司 舞台監督:深瀬元喜
主催製作:tsp Inc.
物語はオーストラリアの地方都市アデレードの郊外。いわゆる地方都市。そこにプライス家の日々がある。母親のフラン(南果歩)は看護師、父親のボブ(栗原英雄)は元自動車工。今は長女ピップ(山下リオ)の子供の迎えや庭の手入れ、特にそこに植えられたバラの手入れが主な彼の仕事だ。そこにヨーロッパへ一人旅にでていたはずの末娘のロージー(山口まゆ)が帰ってきた。どうやら旅先で出会った男性との恋にやぶれ、心の傷を癒すために家族の元へ戻ってきたようだ。プライス家は六人家族。長女のピップは教育局で働くキャリアウーマン、長男のマーク(市川知宏)はIT系のエンジニアで次男のベン(入江甚儀)は金融関係で働いている。どこにでもある家族の会話と風景がそこにある。一家を切り盛りする母親を中心に皆が家族を想い、慈しみ合っている。とても明るい活気のある家族。しかし、それぞれがなかなか家族に言い出せない悩みや問題を抱えていた。一番近いはずの家族、でも実はもっとも遠い存在と感じることがある「家族」。打ち明けられない悩みや、本当に言いたいことが伝えられないもどかしさ。そして本当は愛していると伝えたいのに、感謝しているのに、それがことばにできない時、あるいは意図せずに酷いことばを投げつけて、傷つけ合ってしまう家族との関わり。わたしたちの人生はこんな痛みや悲しみや、もちろん喜びもですが、を家族や人との関わりの中で経験し、自分が「わかっていること」、自分にとって「本当のこと」のリストを増やしていくのでしょう、決してそれを知らなかった頃には戻れないことを知りながら……。春・夏・秋・冬……、そして春……。再び巡ってくる季節、木々や花たちは1年前と同じように芽吹き、花は咲く。しかし、その春は1年前の春とは確実に違う春なのです。この物語はそんな家族のとある1年間の物語です。
入江甚儀
1993年5月18日生まれ。千葉県出身。2008年に『絶対彼氏〜完全無欠の恋人ロボット』(CX)で俳優デビューし、以後『正義の味方』、『オー!マイ・ガール!!』(NTV)と3期連続して連続ドラマのレギュラー出演を果たす。『キカイダー REBOOT』(14)で映画初主演。映像、舞台と幅広く活躍、今年がデビュー15周年となる。近年の主な出演作は【映画】『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編−運命−』『有り、触れた、未来』(23)、『窮鼠はチーズの夢を見る』『劇場』(20)。【ドラマ】『ブラッシュアップライフ』『Get Ready!』『ドラゴン桜』『半沢直樹』(TBS)、大河ドラマ『麒麟がくる』(NHK)ほか。【舞台】『オールナイトニッポン55周年記念公演「あの夜を覚えてる」』(22・配信型演劇)、『舞台版 マーダー★ミステリー〜班目瑞男の事件簿〜』(21)、『幕末太陽傅 外伝』(19)ほか。今後は、10月14・15日開催の舞台『あの夜であえたら』に出演予定。
PHOTOGRAPHER:TOSHIMASA TAKEDA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI