サッカーキャスターとして有名になったことにジレンマもあった
――どういうきっかけで役者を目指そうと思ったのでしょうか。
川平 大学3年生のときに、日本でアラン・パーカー監督のミュージカル映画『フェーム』を学生演劇でやるということを知って、その映画が大好きだったので、オーディションを受けたら合格したんです。大好きだった黒人ダンサーのリロイ役をいただいたんですが、この舞台が連日大入り満員で、最後は毎回スタンディングオベーション。そのときにミュージカルというバズーカ砲に完全に打ちのめされて、「ステージアクターになる!」って決心したんです。
――帰国してからもサッカーは続けていたんですか?
川平 サッカー同好会に入って続けていましたけど、役者になるって決めた瞬間から、オーディションを受けまくりました。当時は、いろんな劇場でミュージカルをやっていたので、たいした上手くない僕でも、たくさんの舞台に立たせてもらえたんです。今の子なんて僕が若いときよりも断然上手いのに、ライバルも多いから大変だと思います。僕の時代だったら大スターになれる逸材がたくさんいます。
――その頃、バックダンサーをやっていた時期もあったそうですね。
川平 ダンスが大好きで、レッスンにも通っていたんですけど、田原俊彦さんのバックダンサーを務めたこともあります。こういうキャラですから、目立ってなんぼみたいな感じでやっていたら、「お前面白い奴だな」と目をかけてもらって、役をいただくこともありました。
――大学時代に、役者でやっていく決意は固まっていたんですか。
川平 固まっていました。就職活動用にリクルートスーツを買ったのに、一度も会社面談することなく、卒業式で着て終わり(笑)。
――役者として駆け出しの頃、壁にぶつかることはなかったんですか?
川平 根拠のない自信があったんですよね。下手したら単なるのぼせ野郎で。でも舞台に立てば立つほど、自分よりもすごい役者さん、ダンサーがいると知って、この道は長いなと思いました。
――その後、『ニュースステーション』のサッカーキャスターオーディションに合格して、同番組のサッカーキャスターに就任したことで、一気にお茶の間の人気者になります。役者としてではなく、サッカーキャスターとして有名になったことを自分でどう思っていましたか。
川平 ジレンマはありましたね。役者仲間からも「慈英はテレビに行っちゃったね」と言われて、悔しい思いもしました。でもサッカーも面白いし、『ニュースステーション』のスタジオも僕にとってのステージだと。サッカーナビゲーターという役をエネルギッシュに演じて、楽しんで発散すればいいのではないかという気持ちに切り替わりました。僕の舞台を観てくれていた人がサッカーに興味をもってくれたり、逆にサッカー好きな人がミュージカルっていうものを観てみようかと思ってもらえたりしたらうれしいなと。
『オケピ!』という三谷幸喜さんの舞台で記憶に残っているのが、確か博多公演のときに、舞台が終わってから『ニュースステーション』のJリーグコーナーがあるということで、舞台上から中継を繋いで、僕は衣裳のまま試合をお伝えしたんです。そのときに司会の久米宏さんが、なぜ僕が舞台上にいるのか、役者としての川平慈英を紹介してくれたんです。初めてサッカーナビゲーター川平慈英とアクター川平慈英が融合した瞬間でした。中継が終わった後、泣いて喜びましたね。
――昨年、60歳になりましたが、仕事に対するスタンスに変化はありますか?
川平 60歳になって、俯瞰的に自分を見ると、「お前、楽しんでるな」と感じます。この歳になると、負の自分を見せても、誰もそんなに気にしていないんだなと分かるんです。それまでは要求されたことに対して倍返しをして喜ばさないといけないと思い込んで、一種の鎧をまとっていたんですよね。それが年齢を重ねるとともに、過剰に頑張らなくてもいいんだと気づいたんです。必要以上の力を発さなくても、自分なりにセリフと音楽と照明と衣裳などを受け入れて、それを丁寧にアウトプットすればすごいパワーになるんだと知ったときに、発散ばかりに重点を置かなくてもいいということが分かったんですよね。だから60代あるいは70代、今後自分がどんな表現者になれるのか楽しみですね。
Information
せたがやこどもプロジェクト2023《ステージ編》
株式会社アミューズ×世田谷パブリックシアター
ミュージカル『カラフル』
【原作】森絵都「カラフル」(文春文庫刊)
【脚本・作詞・演出】小林香
【作曲・編曲】大嵜慶子
【出演】鈴木福 加藤梨里香 百名ヒロキ 石橋陽彩 菊池和澄
島田彩 高井泉名 本田大河 鈴木大菜
彩乃かなみ 川久保拓司 / 川平慈英
【スウィング】畑中竜也 仲本詩菜
公演日程:2023/07/22(土)~ 2023/08/06(日)
会場:世田谷パブリックシアター
料金:一般 S席 9,500円 A席 7,500円
高校生以下 1,000円(S・A席ともに、当日要証明書提示)
親子ペア S席 9,500円(一般1枚+高校生以下1枚、前売りのみ取扱い、当日要証明書提示)
お問合せ:世田谷パブリックシアターチケットセンター(03-5432-1515)営業時間:10:00~19:00(年末年始を除く)
「おめでとうございます!抽選にあたりました!」。死んだはずの<ぼく>(鈴木福)の魂は、ガイド役の天使・プラプラ(川平慈英)に導かれ、自殺を図った小林真として人生の再挑戦をすることに。家族やクラスメイトとの関わりの中で、モノクロだった世界のイメージが少しずつカラフルな色に変わりはじめたとき、<ぼく>の生前の罪が明らかになる……。
PHOTOGRAPHER:YUTA KONO,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI,HAIR&MAKE:HIDENOBU MORIKAWA,STYLIST:EMIKO SEKI