「天職ではない」お笑いの道に進んだ理由は?
──最新作のエッセイ『行儀は悪いが天気は良い』ですが、文章にリズム感があって非常に読みやすかったです。
加納愛子(以下、加納) ありがとうございます!1冊になったものを改めて読み返してみると、我ながら素直に書いているなって感じました。雑誌『小説新潮』に連載したものに、細かい部分で多少の赤字を入れているんですけどね。
──雑誌掲載時、ファンや読者からの反響もありましたか?
加納 どうだろうな……。いかんせん私はSNSをまったくやらないものですから、そのへんがピンと来ていなくて(笑)。
──今どき、人前に立つ職業でSNSをやらないというのは珍しい気もします。何かこだわりが?
加納 単純に興味がないということがひとつ。それに加えて、そもそもSNSって“言い訳できる”コンテンツな気がするんですよ。私たちはYouTubeもやっていますし、発信するものに関してはそれで十分かなという感じですね。反響に関しては、「紙の雑誌を初めて買った」という声もありました。お笑いファンの人って、文芸誌を毎月買うような習慣があまりないみたいなんですよ。
──お笑いファンに限らず、若い人は文芸誌なんてなかなか手に取らないでしょうね。
加納 だからこそ、うれしかったという面はあります。もちろん私以外にも芸人で文章を書く方は大勢いますけど、ジャンルの壁を越えて届いているんだなという手応えがあって。
──処女作がエッセイ集で、2作目は小説でした。今回、前2作との違いはどのへんにありますか?
加納 1回ごとの文章量が多いんですよ。それもあって、今まで以上に素の自分が出せた気がします。今回は起承転結とか綺麗なオチをあまり意識せず、つらつらと自分の本音を文字にした面が大きいんです。それを担当編集の方と話し合う中、芸人になる前の話をテーマにしようということになりまして。過去を振り返る作業だった点も、今までの本とは違うところかもしれません。
──昔の自分を振り返ることで、再発見したこともありましたか?
加納 あまり自分は複雑な人間ではなく、シンプルな感情を抱きながら日常を過ごしていたんだなと。今はこうして芸人をやっていますけど、幼少期からそこに繋がる流れは明確にあったということにも気づかされました。
──今回の本の中でも触れていましたが、人一倍、面白いことに貪欲な学生時代だった?
加納 自分が特別に面白い人間かと言えば、別にそんなこともなかったと思うんです。だけど、面白さに対する執着心は明らかに強かったですね。いつも面白いことにアンテナを張っていたと言いますか……。
──芸人として成功を収めているにもかかわらず、「別に芸人が天職だとは思っていない」と断言しているのも驚きでした。となると、なぜ非常に競争が過酷なお笑いの世界に?
加納 正直、大学を卒業する頃は社会のことが何も分かっていなかったので、お笑いの世界が厳しいことも認識していなかったんです。まぁ向こう見ずだったんでしょうね。