私にとって“無邪気”は魔法の言葉で、役作りの軸に置いて演じていた

――『水深ゼロメートルから』は2021年に上演された舞台の映画化ですが、濵尾さんは同じ役柄で舞台にも出演しています。そのときが初舞台だったそうですね。

濵尾咲綺(以下、濵尾) 高校3年生だったんですが、メインキャストオーディションで選んでいただきました。

――この舞台は2019年に始まった「高校演劇リブート企画」の第二弾ですが、第一弾の『アルプススタンドのはしの方』(2020)も映画化されて、スマッシュヒットを記録しました。そちらの映画は観ましたか?

濵尾 『水深ゼロメートルから』のオーディションの前に、映画館まで観に行きました。5人の高校生の心情が深く丁寧に伝わってくる作品だったので、号泣しました。一番後ろの席で観たんですが気付いたら映画の世界に入り込んでいました。

――初めて舞台『水深ゼロメートルから』の脚本を読んだときの印象はいかがでしたか。

濵尾 まず原作を当時は現役高校生だった中田夢花さんが書いたと聞いてびっくりしました。中田さんが「高校生だったからこそ書けた」みたいなことを仰っていて。私自身、高校生だったからこそ大人になる手前の準備段階で、体の変化について悩んでいる年頃だったというのもありますし、同級生や先生への気持ちなどが隠すことなくストレートに伝わってくる脚本だったので、共感する部分がたくさんありました。メインキャラクターの中でも、実際に私が演じたココロに最も感情移入していたので、オーディションのときも「ココロ役がやりたいです」と言いました。

――ココロのどこに感情移入したのでしょうか。

濵尾 私は中学1年生から『nicola』の専属モデルをやらせていただいていて、モデルは見られるお仕事ですし、いろいろな方からの意見もいただくので、かわいくいなきゃ認めてもらえないと思い込んでいた時期があったんです。この舞台に出たときは高校3年生で、ちょうど『nicola』を卒業したばかりだったので、ココロの「かわいくなきゃいけない!」という気持ちに共感しました。クライマックスでココロが見つけた言葉には、私自身すごく救われました。

――初舞台の稽古期間はいかがでしたか。

濵尾 1ヶ月間ぐらいだったんですけど、学校に通いながらだったので、3時間目まで授業を受けて、そのまま稽古場に行ってお稽古をするみたいな毎日でした。初舞台ですし、映像も含めて、がっつりお芝居をする経験自体が初めてだったので、何も分からない状態。でも演出の小沢道成さんが1から役作りを教えてくださって、共演者の子たちと一緒に話し合って、お互いのキャラクターの印象を言い合う時間も作ってくださったんです。自分一人で考えるのではなく、他の人の意見ももらえる場を作ってくださったのは大きかったです。

――積極的に意見は言えましたか。

濵尾 温かい現場だったので言いやすかったですし、変に肯定されないというか、「そういう意見もあるよね」という現場だったので勉強になりました。

――実際の舞台はいかがでしたか。

濵尾 お客さんの前で、リアルタイムでお芝居をするのも初めてだったので、逆に怖さを知らない部分もあって、「もうやるしかない!」という気持ちで舞台に立っていました。『水深ゼロメートルから』の後に3回、舞台をやらせていただいたんですが、回を重ねると逆に緊張するようになりました。

――映画化のお話はいつぐらいにあったんですか。

濵尾 去年10月に撮影したんですが、撮影の1ヶ月前ぐらいに聞きました。『アルプススタンドのはしの方』の例もあるので、みんなで「映画もやりたいね」と話していたんですけど、まさか本当にできるとはと驚きました。一つの役を映画でも舞台でも演じられるって貴重な経験ですから。

――それまで山下敦弘監督の作品は観たことがありましたか?

濵尾 はい。『リンダ リンダ リンダ』も女子高生のお話で大好きな映画だったので、今回の映画化は山下監督と聞いてうれしかったです。今年公開の『カラオケ行こ!』は映画館で観たんですが、最近NETFLIXに入ったので、改めて家族全員で観ました。中学生の妹が、キティちゃんの刺青を彫られるシーンで大爆笑していました(笑)。

――映画の脚本を読んで、どういう部分が舞台と違うなと感じましたか。

濵尾 大きく変わった部分はなかったんですけど、りんかというキャラクターが新たに加わって、1軍キャラだったココロが本物ではない感じに変わっているなと感じました。

――役作りをするにあたって、山下監督と話したことはありますか。

濵尾 ココロは人を傷つけるようなことを平気で言ってしまいますが、私は逆の性格で考えて話すタイプなんです。だから、なかなか理解しきれない部分があって、山下監督に相談させていただきました。そしたら「ココロは無邪気なんだ」という言葉をくださって、それで私の中で迷っていたものが作品と繋がったんです。私にとって“無邪気”は魔法の言葉で、それを役作りの軸に置いて演じていました。

――無邪気だからこそ人を傷つける言葉を、同級生にも先生にも言ってしまうんですよね。舞台は水のないプールが大半ですが、いつぐらいの時期の撮影だったんですか。

濵尾 10月に10日間かけて撮影したんですが、去年は秋になっても暑くて。夏のお話なんですが、変に夏っぽさを出さなくても、普通にやっているだけで夏を感じられたので、良かったなと思います。待ち時間は、みんなで日傘をさしたりしながら過ごしていました。