運命を変えた中野たむのプロレス人生をすべて背負う覚悟の3カウント
――刊行された『アイドルで落ちこぼれだった私がプロレス界のセンターに立った話』。かなり赤裸々に過去のことも告白されていますが、なぜ、このタイミングで自伝を出されたのでしょうか。
上谷沙弥(以下、上谷) 私がヒールレスラーになってから、上谷沙弥を知ってくれた人も多いと思う。著書では、プロレスだけでなく、ダンスやアイドルをやってきたりと色んな人生を送ってきて、たくさん挫折もしたし、そういった部分も含めて、幼少期から今に至るまで、過去の自分を全てさらけ出したよ。さらけ出して知ってもらった上で、自分のリングの上の試合っていうのを見てほしいなと思い、本を出すことに決めたよ。

――ヒールレスラーとして、自身の過去を出すというのはマイナスにはならないでしょうか?
上谷 そうだな。でも、自分はプロレスをやる上で、プラスだけじゃなくて、マイナスな部分もすべてさらけ出すプロレスをしたいと思ってる。かっこいい部分だけじゃなくて、弱さでさえも強みに変えていきたいと思っているので。みんなが知らない自分の弱さを知られてしまって、どう思われるんだろうという怖さみたいなのはあるけど、それで嫌いになられたら仕方がない。ありのままの自分を表現したいと思いながら、日々過ごして生きてるよ。
―― 新しいプロレスラーのヒール像を作りたいとお話しされていました。
上谷 昨年からずっと発言してるんだけど、やっぱり昭和のヒールレスラーのイメージで止まってしまっていると思う。メディアで見かけるのもレジェンドの方々がすごい多いし。でも、ヒールレスラーといえばこうだよねという、固定概念を取っ払いたいなって思っているし、自分が思うがままのヒールレスラー像を築いているつもり。
―― 徐々に変わっているという手応えはありますか。
上谷 そうだな。最初の頃は、お前はヒールレスラーっぽくないと否定の意見がすごい多かった。でも、リング上で結果を出したり、メディアに出演させてもらうようになって、少しずつ認められてきている気がするよ。
―― 2025年4月27日、横浜アリーナ。中野たむさんとの引退をかけた試合が行われ、敗北したたむさんは引退されました。著書には、そんなたむさんにあてた熱い手書きのメッセージがあります。あの試合からもうすぐ1年、改めてこのメッセージを書かれたのはなぜでしょうか。
上谷 ヒールレスラーの上谷沙弥が今存在してるのは、中野たむのおかげだと心から思ってる。あの戦いはおたがいのプロレス人生をすべてかけた戦いで。誰も味わえないような、プロレスラーとしての究極の戦いが、自分自身も味わえた。それがきっかけで女子プロレス界においての風向きもすごく変わった一戦だったとも思うよ。戦いの中で、私はたむを引退させたけど、たむのプロレス人生を自分自身は背負って、これからも戦い続けなきゃいけない使命があると思ってるし、自分の素直な思いを綴ったよ。

―― たむさんが本当に引退したんだということがこのメッセージで裏付けられた形になりましたね。
上谷 たしかに、ファンからの視点で見たら、そう捉えられるのかもしれないな。
――引退をかけたあの試合。最後にカウントをとる前に一瞬、素の上谷さんが現れた気がしました。何を思われていたのですか。
上谷 中野たむはもうこれで終わりなんだって。ワン、ツー、スリーってなったら引退するから、正直その時を迎えたくない複雑な気持ちもあった。戦いの中で彼女自身「もうこれでほんとに終わりなんだ」と悟っていたというか…。だから、中野たむのすべてを、プロレス人生を私自身の手で終わらせるっていう、憎しみだけじゃないし愛もある、色んな思いを込めて、最後にフォールを決めたよ。
