俳優をやる上で大きな経験になった二つのドラマ

――『SHELL』は学校が舞台ということで、学生時代の話もお伺いしたいんですが、秋田さんは中学1年生のときに「ニコラモデルオーディション」でグランプリを獲得して、『nicola』専属モデルになったのが芸能界入りのきっかけです。

秋田 実は小学6年生のときにも「ニコラモデルオーディション」を受けて落ちているんです。

――どうして受けようと思ったんですか?

秋田 秋田家のルールで、月イチで本屋さんに行って本を一冊買ってもらえたんです。ずっと私は少女マンガ誌を買っていたんですけど、姉は『nicola』を買っていて。そしたら小学5年生のとき、お母さんに「そろそろおしゃれにも興味を持ってみたら?」と言われて、私も『nicola』を買ったんです。そのときは一回きりで、また少女マンガ誌に戻ったんですけど、どこかのタイミングで『nicola』にシフトチェンジして。そこからドハマりして、全ページ記憶するぐらい毎日読み込んで、キラキラしたモデルさんに憧れました。

――それで自分もモデルになりたいと。

秋田 モデルというよりは、『nicola』の世界に憧れていて、お父さんとお母さんを説得してオーディションに応募したんです。最初はグループ面接まで進んだんですけど、そこで落ちてしまって。でも一緒に面接を受けた一人の子が合格したんですよ。そこから1年間、その子が『nicola』に載っている姿を見ると悔しくて。それで中学1年生のときに、もう1回受けようと思っていたら、お母さんから「受けたいんでしょう」と言われて。再チャレンジしたら合格しました。

――憧れの世界に入っていかがでしたか。

秋田 楽しかった記憶しかないです。学業優先で、撮影は毎週土日だったので、金曜日の夜に上京して、撮影して、日曜の夜に帰って、また月曜から学校みたいな感じで、専属モデル同士も仲良しだったので部活みたいな感覚でした。

――いつぐらいからお芝居に興味を持ったんですか?

秋田 中学2年生から、ちょこちょこ事務所の演技レッスンを受けていたんですが、当時はあんまり好きじゃなかったんです。というのもレッスンの先生が怖かったんです(笑)。それでも徐々にお芝居のオーディションを受け出して、先ほどお話した『惡の華』の佐伯奈々子役に選ばれてから、本格的にお芝居を始めました。

――かなり早い段階で大きな作品と出会ったんですね。本格的にお芝居を始めたばかりで難しくなかったですか。

秋田 佐伯奈々子自身が、起きている出来事について理解しきれていないまま行動する子だったので、私自身も理解が及ばない状態で演じることができて逆に良かったのかなと思います。

――そのほかに印象的な作品を教えてください。

秋田 「3年A組-今から皆さんは、人質です-」(2019)です。当時、私は高校1年生だったんですが、キャストの中で最年少だったんです。先生役の菅田将暉さんが長いセリフをしゃべられて、それに対しての生徒のリアクションを、長回しで撮るシーンが多くて。みんなドラマの世界に入っているんですけど、私だけ入り切れていないなという自覚があって、置いてけぼりになっているなと。みんなお芝居が上手だし、熱意もすごくて、毎日、実力の差を感じていました。自分はまだまだだなと痛感して、もっと頑張ろうと思いました。

――印象に残った作品を聞いたときに、秋田さんのように「3年A組」を挙げる俳優さんは多いです。

秋田 「3年A組」でご一緒した方と共演する機会もあって、今でも記憶に残る作品です。あと「賭ケグルイ双」(2021)も印象深いですね。主演の森川葵さんは、ずっと憧れの俳優さんで、このドラマで初めて共演させていただいたんです。森川さんの出演作品はたくさん観ているんですが、どの役も別人じゃないかというぐらい違うキャラクターになっていて。尊敬していましたし、そのお芝居を近くで見られることが本当に楽しみでした。撮影が始まると、森川さんの役作りの過程を間近で見ることができて。監督と話している姿を見ていると、明確に目指しているものがあって、それに向けて役作りをされている。そんな森川さんのお芝居に、誰もが心を持っていかれるんです。とても勉強になった現場でしたね。

Information

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース
『SHELL』

【神奈川公演】
日時:2023年11月11日(土)~11月26日(日)
会場:KAAT神奈川芸術劇場<ホール>

【京都公演】 
日時:2023年12月9日(土)15:00開演、10日(日)13:00開演
会場:京都芸術劇場 春秋座

作:倉持裕
演出:杉原邦生
音楽:原口沙輔
出演:石井杏奈 秋田汐梨
石川雷蔵 水島麻理奈 成海花音 北川雅 上杉柚葉 キクチカンキ 香月彩里
近藤頌利 笠島智 原扶貴子
岡田義徳 ほか

とある高校の放課後の教室。そこには生徒の未羽(みう)、希穂(きほ)、咲斗(さくと)と数名の友達たち。彼らは、突然学校に来なくなった松田先生について、そしてこの学校の問題について度々話し合っている。ある日、未羽は通りがかったビルからマネキンが落ちてくる現場に遭遇する。そのマネキンを抱きかかえていたのは中年男の高木だが、未羽には高木でもあり希穂の顔にも見えるという不思議な体験をする。同じ人間がいくつもの<顔>を持っている。それは、一部の者だけが知っている世界だったのだが、未羽にはそれを見抜く力があった。希穂たち以外にも、いくつもの<顔>をもっている人々が分かる未羽。様々な登場人物たちがうごめく中で、顔を見抜けて「絶対他者」を繋げてしまう未羽、顔を持つ人々、そして全く分からない人々との間に、摩擦が生じていく……。

公式サイト

秋田汐梨

2003年3月19日生まれ。京都府出身。2017年に俳優デビュー。ドラマ「3年A組-今から皆さんは、人質です-」(19年)で連続ドラマ初出演を果たし、同年、映画『惡の華』で佐伯奈々子役を演じ話題に。その後もドラマ「ホームルーム」(20年)、「17.3 about a sex」(20年)、「賭ケグルイ双」(21年)、「トーキョー製麺所」(21年)、「彼女、お借りします」(22年)、映画『星空の向こうの国』(21年)、『映画刀剣乱舞―黎明-』(23年)などに出演。初舞台は『目頭を押さえた』(21年/作:横山拓也・演出:寺十吾)でW主演、その後も『幽霊はここにいる』(22年/作:安部公房・演出:稲葉賀恵)に出演するなど活躍の場を広げている。

PHOTOGRAPHER:TOSHIMASA TAKEDA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI