常にものが生み出される瞬間に興味がある
――お芝居はどういう流れで始めたんですか。
山本 フリーになったときに、独り身で何でもやれちゃうから、何でもやっちゃおうと思って。被写体という意味では、モデルも俳優も近くにあるものじゃないですか。もちろん畑は違うから別物とは分かっていたんですけど、まだ食べたことのないものに対して、どんな味がするんだろうみたいな感覚で、私がお芝居をやったらどんな感じなんだろうと。モデルのときと同じで、「お芝居をやりたい!」というよりは、やったこともないから、やってみないと分からない、「お芝居ってどんな感じですかね?」みたいな。
――お芝居に関するツテなどはあったんですか?
山本 そのとき、信用している大人の言うことを全部聞くキャンペーンをやっていて(笑)。その人に言われたら、実際にやってみるとか、会ってみるとか、いろんな接触面を増やしていたんです。そうやって自分の中から湧き出るものじゃない機会を増やしたときに、「お芝居をやってみれば?」と声をかけてくれる人が何人かいて。それで勇気を出してワークショップを受けたら、そこに今のマネージャーさんがいらっしゃって、私に興味を持ってくれたんです。
――ワークショップは楽しかったんですか?
山本 全くでした。みんなが見ている前で、やったことのないことをやって。何が正解かも分からないから、「この人みたいにやればいいじゃない」ということすら分からない。とりあえずやるみたいな感じで、がむしゃらでやって、その状況が何か怖かったんですよね。でもマネージャーさんに、「今から新しい事務所を作ろうと思っているんですけど所属しませんか?」と声をかけられて。やりたい気持ちはあるけど、畑が違い過ぎるし、急に初めての人が登場して、「怪しい。どうしよう……」みたいな。でも、やってみようと思ってやれるものではないから、まずはやってみようと。それで、いろいろオーディションを受けていく中の一つに今泉力哉監督の『猫は逃げた』(2022)があって。それに受かって、初めてちゃんと役の名前がある大きなお仕事をやれたのが、本格的にお芝居を始めたきっかけです。
――オーディションを受ける前から今泉作品は観ていたんですか?
山本 大好きでした。『猫は逃げた』に関しては、主演の一人をオーディションから選ぶキャパの広さがいいなと思って。新しい人を起用するとか、誰かを育てるのって怖いじゃないですか。商業的なことを考えると、集客を見込めるほうがいいって絶対にあると思うんですけど、ほぼ出演作もない無名の私を選んでくれて、とりあえずこの世界で生きていて大丈夫なんだという気持ちになりました。
――お芝居を始めて間もない段階での大役はプレッシャーも大きかったのではないでしょうか。
山本 大きかったですね。お風呂に入っているときとか、ふとしたときに、「うわ!決まっちゃった。私やるんだ……」みたいな。今泉監督の作品は好きでしたけど、そのときは幾つも受けたオーディションの一つに過ぎなかったので、受かったらいいなと思っていたけど、この流れで決まっちゃって本当にいいの?と。決まってから先の想像がつかなくて、どういうふうに本読みするのかすらも分からなかったんです。本読みに行ったときも、いっぱい大人がいる中で始まっちゃうんだ、みたいな。今泉監督にも、「私で大丈夫ですか?」と聞いちゃうぐらい無知でした。
――俳優としてのキャリアが始まった直後に大役を任されて良かった面はありますか?
山本 めちゃくちゃありますね。今回の桐子に寄せて話すと、私は不器用だし、頑固だし、マイペースだし。そういう自覚もあったし、実際にバイトでも上手くいかなかったことが多くて。でも私なりに、走れない人の走り方があって。そんな私に今泉監督は、「あなたのままで、そこに存在することで全然OKです。やりたいようにやってください」と言ってくれたんです。それまでの私は、このままの自分でいることにコンプレックスも感じていたから、これでいいんだと安心して。それが今回の桐子にも繋がっているんですよね。
――今後もお芝居に限らず、いろんなことにチャレンジしたい気持ちはあるのでしょうか。
山本 チャレンジしようと思ったときは多分していると思うから、絶対するはずです。自分を表現する方法ってカメラの前に立つことだけじゃなくて、言葉を書くとか、制作に関わる人たちの横で一緒に走るとかもそうだと思うし、常にものが生み出される瞬間に興味があるので、今後もいろいろなことをやっていくと思います。
Information
『走れない人の走り方』
テアトル新宿にて二週間限定上映中
以降5月18日(土)より横浜シネマリン、5月24日(金)よりシネマート心斎橋、出町座ほか順次公開
出演:山本奈衣瑠
早織 磯田龍生 BEBE 服部竜三郎
五十嵐諒 荒木知佳 村上由規乃 谷仲恵輔
綾乃彩 福山香温 齊藤由衣 窪瀬環 平吹正名 諏訪敦彦
監督:蘇鈺淳
脚本:上原哲也 石井夏実
プロデューサー:黄申知 大槻美夢 小池悠補
撮影:齊藤夏寛 照明:織田知樹 美術:茅蘅
サウンドデザイン:城野直樹 録音:浪瀬駿太
編集:張馨予 音楽:スカンク/SKANK 配給:イハフィルムズ
©2024 東京藝術大学大学院映像研究科
ロードムービーを撮りたい映画監督の小島桐子。だが、理想の映画づくりとは裏腹に、予算は限られ、キャスティングは難航するなど、問題は山積みだ。ある日桐子は、プロデューサーに内緒でロケハンに向かうが、その途中で車が故障。さらにその夜に飼い猫が家から逃げ出した上、妊娠中の同居人が産気づく。様々なトラブルに見舞われ動揺した桐子は、翌朝の大切なメインキャストの打合せを反故にしてしまう。キャストが決まらず車を直す金もない中で、撮影を実現させるための方法を模索する桐子は、あるアイデアを思いつく。
PHOTOGRAPHER:TOMO TAMURA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI,HAIR&MAKE:kika,STYLIST:佐藤奈津美