新しいことにチャレンジしたいという思いはずっと変わらない

――ここからはキャリアについてお話を伺います。中学時代に芸能の世界に入りたいと考えて、宝塚音楽学校に入学しますがご家族の反応はいかがでしたか?

大地 父は最初芸能界に入ることは反対していました。でも、宝塚ならと言うことで、入学できてからは母と一緒に応援してくれました。とは言え、心配はしていましたね。私は淡路島出身なのですが、当時は橋もなかったので、地元から出ることに複雑な思いがあったと思います。宝塚を受験することになったきっかけは、父の知り合いが「宝塚音楽学校は安心して預けられる学校だよ」と言ってくださり、そこから受験勉強を始めたことでした。

――それまで宝塚の舞台を観たことはあったのですか?

大地 姉は観たことがあって、「すごく素敵なところよ」と聞いていましたが、実際に私が観たのは入学してから、観劇日と言うのがあってそのときでした。初めて観たときはその迫力と華やかさに「すごい!」の連続。当時の劇場は3300席ほどあって、私が観たのは3階の一番上の席。トップスターの方が着替えて出てくると別人に見えて、同期生に「あの方はどなた?」と聞いたら、「トップスターを知らないの?」と不思議がられました(笑)。

――大地さんは1982年、月組トップスターの座に就きます。プレッシャーはありましたか?

大地 当時は26、27歳だったので、逆に怖いもの知らずだったような気がします。それまでの宝塚にない新しいタイプやスタイルを目指すなんて言っていたのですが、周りの方々が協力的で仲間たちの支えがあったから、のびのびとやらせていただくことができました。本当に恵まれていたと思います。

――新しいタイプやスタイルとは具体的にはどういったことでしょうか。

大地 伝統を受け継ぎ、受け渡すことも宝塚の素晴らしいところですが、今の時代の風も吹き込んでいきたいと思っていました。そのためにヘアメイクや衣装、演技法など、いろいろと私なりに考えて、オリジナリティを持ちたいと意識していました。

――そういった変化に宝塚ファンの方はどう反応されましたか?

大地 最初、オールドファンの方は戸惑ったと思います。でも「〇〇ちゃんタイプ」「〇〇さんタイプ」という枠組みに入らない人がトップになると、それが新しい形になるんです。それが新たなタイプになり、また下級生が目指すようになります。私の中ではトップになることだけが目標ではなく、“大地真央”という男役を作り上げたいと思っていて、結果としてトップにしていただけたと思っています。

――退団後のキャリアについては、いつ頃から意識されていましたか?

大地 退団したのは29歳でしたが、28歳のときに父が亡くなって、その頃から卒業を意識し始めました。宝塚のことは大好きでしたが、一生いるか、それとも新しい扉を開けるか考えた結果、29歳で退団して、30歳でゼロからのスタートを切りました。

――大地さんは在団中から、ラジオ番組のアシスタントやレコードのリリース、テレビ・CM出演など多岐にわたる活動をされていました。

大地 たまたまオファーがあったので、ラジオ番組のアシスタントを始めて、その後、オーディションがあって1年半という期限付きでタレント活動のようなことをしていました。当時の宝塚は基本的に外部での活動をしていない時代だったので異例でした。

――外での活動を経験できたことで良かった点はありますか?

大地 当時は手探りだったのもあって、「何をやっているんだろう」と思いつつ、宝塚を外から客観視することができたので、もっと新しいものを取り入れたい、自分らしい男役を作りたいというきっかけにもなり、ますます宝塚が好きになりましたね。

――今回の『ゴッドマザー~コシノアヤコの生涯~』は大地さんにとって映画初主演という新たな挑戦でした。

大地 新しいことにチャレンジしたいという思いはずっと変わらないですね。初舞台から50年以上経っても、今回のように「初めて」というものがあるので、この職業は「死ぬまで勉強」とよく言われますが、本当にそうだなと思います。

Information

映画『ゴッドマザー~コシノアヤコの生涯~』
2025年5月23日(金)より全国公開

出演:大地真央、黒谷友香、鈴木砂羽、水上京香、寺田光、菊地麻衣、板垣樹、浅田芭路、永尾柚乃、江原璃莉、矢田亜希子、大西礼芳、庄野﨑謙、堀田眞三、上西雄大、川﨑麻世、辰巳琢郎、温水洋一、木村祐一、市川右團次
製作総指揮:瀬古口精良

監督:曽根剛
撮影・編集:曽根剛
脚本:池田テツヒロ
配給:日活、東京テアトル
©「ゴッドマザー〜コシノアヤコの生涯〜」製作委員会

危篤になったアヤコは、病院に搬送される。三姉妹が駆けつける中、天国か地獄行きかの審判をくだされる場所に案内する天使がアヤコの前に現れる。洋装店の開業、戦病死で夫を失ったアヤコが知る初めての恋、74歳で立ち上げたブランドなど、ミシンに魅せられて飛び込んだファッションの世界で生きた人生をアヤコは振り返っていた。

公式サイト

大地真央

1956年2月5日生まれ。兵庫県出身。宝塚歌劇団トップスターとして一時代を築き、宝塚歌劇団100周年を記念した「宝塚歌劇の殿堂」設立当初からの100人に選ばれ殿堂入りを果たす。退団後の主演舞台は「風と共に去りぬ」「マイ・フェア・レディ」「エニシング・ゴーズ」「クレオパトラ」「ローマの休日」「マリー・アントワネット」「ガブリエル・シャネル」「ふるあめりかに袖はぬらさじ」「クイーン・エリザベス」「夫婦漫才」「最高のオバハン中島ハルコ」他、多様なヒロインを演じ続け、文化庁芸術祭賞大賞、菊田一夫演劇賞特別賞、松尾芸能賞演劇優秀賞など多数受賞。また、「越路吹雪物語」「最高のオバハン中島ハルコ」「正直不動産」など、数々のドラマでも存在感を示し、映画、CMでも幅広く活躍中。

PHOTOGRAPHER:TOSHIMASA TAKEDA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI