事務所の方の一言で中退せずに大学を卒業できた

――最初から俳優でやっていこうという気持は強かったんですか?

市川 ジュノンボーイの先輩方は、お芝居をしている方が多いので、自分もそうなるんだろうなとボンヤリ思っていました。お声がけいただいた今の事務所も、役者さんが中心でしたしね。強い気持ちがあったというよりは、レールに乗せていただいた印象が強いです。

――先ほど人前に出るのは恥ずかしいタイプと仰っていましたが、お芝居はどうだったんですか。

市川 やっぱり恥ずかしかったです。テレビでドラマを見ている分には楽そうに見えていたんですけど、実際やることってこんなに難しいんだと思いました。ワンカットを撮るために、こんなに時間をかけるんだというのも驚きでしたし、みなさんに敬意を抱いていました。

――同世代の俳優はガツガツしていたんじゃないですか?

市川 そうですね。そういう役者さんに比べると、何も考えてない奴って思われていたでしょうし、実際そうでした。今思うと、スタートダッシュが出来ていないタイプでしたね。ただ、後悔はないですし、それが自分のペースだったんだろうなって。後になって、せっかくいただいたお仕事なのに、ちゃんとこなせなかったという申し訳なさがありましたけど、今後お仕事で還元していくしかないなってポジティブに捉えていました。

――デビュー年からコンスタントにドラマ出演をして、2010年には早くも連続ドラマ『クローン ベイビー』で初主演を務めます。

市川 ありがたいことに最初からお仕事をいただけたんですけど、全く自分の思う通りにお芝居ができなくて、完成した作品を見て愕然としていました。だからデビュー当時は恥ずかしい思い出のほうが多いです。経験を積むうちに、今まで出せなかった感情を出せるようになって、そういうちょっとした成長を重ねてきたから、今まで続けてこられました。レールに乗せてもらったら、そのレール上が居心地良くて、気づけば自分から歩き始めた、みたいな感じですね。

――仕事一本に絞らず、大学進学したのはなぜでしょうか。

市川 コンテストを受けるまで芸能界に興味がなかったですし、このままやっていけるかも分からない。自分としても大学に行きたかったですし、親からも「大学に行かないなら、芸能界入りは認めない」と言われて。事務所の方に相談したら、「大学に行ったほうがいいよ」と言ってくれたので進学しました。でも試験と撮影が被ることが多くて、結局三留して、7年間も大学に通ったんですけどね(笑)。

――三留したとはいえ、結果的に卒業したのはすごいですね。

市川 実は辞めようと思って、事務所でお世話なっている方に相談したんです。そしたらめちゃくちゃ怒られて、「長い人生の中で、数年を頑張れない奴が、この先役者として頑張れる訳がない」と言われたんです。まさにその通りだ、逃げてるところもあったなと思って、そこから気持ちを入れ替えて卒業しました。その言葉は今も心の中に残っていますし、そこから意識も変わりました。

――映像でターニングポイントになった作品は何でしょうか。

市川 映画『銀の匙 Silver Spoon』(2014)は僕にとって4本目の映画出演で、ワンシーン・ワンカットの長回しが多い作品でした。ドラマはカットを割るので、その生っぽさが新鮮で、映画ならではの面白さを体感しました。舞台が北海道の農業高等学校で、ずっと北海道で撮影をしていたので、現場も青春感がありました。

――舞台はいかがですか?

市川 19歳のときに出演した『ピグマリオン』です。初舞台で初主演をやらせていただいたんですけど、何もできなくて。海外の戯曲なんですけど、今読んでも難解なんですよね。とてもじゃないけど僕には理解が及ばなくて、ひたすら稽古に励むしかない状況。演出も厳しい方だったので、「違う違う」とダメ出しをされて、もう無理だと思いました。でも、その苦しかった経験を早くにできて良かったです。最初の舞台で強烈な洗礼を受けたので、その後に経験した舞台は基本的に楽しく感じられました。

――どういうときに舞台のやりがいを感じますか。

市川 稽古を重ねていくうちに、演じている役の気持ちが分かっていくんですけど、本番でお客さんの前に立って演じると、また新しい発見があることが多くて。そのときにお客さんと一緒に舞台を作り上げているんだなと実感して、やりがいを感じます。あと若いときは、稽古でやった演技をなぞっちゃうことが多かったんですよね。たとえば昼公演で沸き起こった感情があって、それを夜公演でも活かせばいいのに、もう一度稽古でやった感情を立ち上げるみたいなことをやっていて、それって何か違うなと感じていたんです。ただ、なぞるほうが安心できるので、変えることができなかったんですよね。でも2016年に出演した舞台『紅をさす』あたりから、毎回新鮮な気持ちできるようになって、瞬間瞬間の感情を大切にした演技をできるのは楽しいです。